人生の最大目標は「いい親父になれ」! 仙台育英監督が明かす“強さの秘密”

野球人口減少の中で考えるべきこととは?

 野球人口減少についても触れられた。時代は移り変わり、少子化の影響で小中高校の統廃合や学級減は加速するばかり。今後、野球人口が増えることは難しいだろう。ベースボール型競技をやる機会も減ってきている。佐々木監督は「昔のように、みんなが野球をやっていた時代に戻そうとか、あの時代はよかったなという切り口では昔ながらの野球の感覚のまま。“巨人・大鵬・卵焼き”のような、子どもがみんな野球をやっている、野球オンリーの時代があったが、今はいろんなスポーツを選択するようになった。それが“普通”という感覚を野球に携わる人間は受け入れないといけないと思っている」と、過去ではなく、現状を理解した上で今後を見据えるべきではないかと話した。

 高校野球は来夏、第100回大会を迎えるが、「高校野球の立場から思うのは、100回大会を機に一度、今までの野球は終わりという感覚で考え直そう、と。(教育的観点から)野球をやっている人間はこうでなければならないと見られがちだが、サッカーはゲームとして入ってきて、とらわれない雰囲気がある。一度、リセットして、ゲームとして野球を楽しめるように考えていってもいい時期なのではないか。高校野球100回がきっかけなのでないかと思います」と続けた。

 大学野球連盟の野球普及委員でもある森本監督は「競技人口の問題は話題になるが、本当に選択肢が増え、多様化してきている。では、サッカーやバスケに目が向くことが悪いことなのか。そこはピンときていないが、現場を預かる人間として、野球というものをしっかりと意味のある、魅力あるものにしていく。その中で野球をやりたいという思いを持たせることが大事なのかなと感じている」と語った。一方で、橘田監督は小学生の女子野球人口が今年1年で2000人増えたと言われていることを伝え、「小学生の大会、中学生の大会も参加が増えてきた。大学のチーム数が少ないことが課題だが、高校は来年からクラーク記念国際高仙台キャンパスで女子硬式野球部が作られるなど、年々、増えている。女子野球はファンを増やすために一生懸命やっている姿を見てもらおうと頑張っているところです」と現状を話した。

 最後に野球に関する提言をそれぞれがホワイトボードに記入した。「日本から世界へ」と書いた日の丸を率いる橘田監督は「女子野球の日本代表は勝つことだけが目的ではない。まだまだ、女子野球が始まっていない国もあるので、野球を伝えていく、女子野球を始めてもらうというプロジェクトも担っている。世界大会に行くだけではなく、野球はこう進めるんだよ、こういう戦い方もあるんだよというところを日本から世界に発信していきたいと思います」と世界での普及に夢を広げた。森本監督は「たかが野球、されど野球」と記し、「野球の勝ち負けには価値がないと思っています。ただ、それで終わってしまうと、野球をやる意味がない。野球をやっていることで得られるものを、たかが野球をされど野球にまで持ってくることが学生野球の指導者の使命かなと考えています」と説明した。

「野球をはじめるきっかけとして、お父さん、お母さん、これを思った方がいいのではないでしょうか」と、佐々木監督が書いたのは「野球をすると頭が良くなるらしい。今後の子どもたちへ」。佐々木監督は28日に東京で開かれた星野仙一氏の野球殿堂入りを祝う会に出席した際、東大・浜田一志監督から得た情報として、「東大の研究で発表されているというのを一昨日、聞きました。お父さん、お母さん、野球をすると頭がよくなるらしいです」と話すと拍手が沸き起こった。「今後、野球が滅亡しないためには絶対に必要なのではないか。野球は考えてばかりのスポーツです。1回もボールが飛んでこない野手もいるが、試合中はずっと考えないといけない」。打って、走って、投げて、捕ってという動作そのものが野球ではない。状況の判断や予測、分析など、頭を使わなければ野球は進められない。そして、その考える時間が多いスポーツだ。スキルはもちろん、知識を身につけ、考え方を学ぶことで思考力や解決する力が自分のものとなるだろう。

 冗談や笑い話も交えながら、大学野球、高校野球、女子野球の3人の指導者が80分にわたって行ったパネルディスカッション。野球界やそれぞれのカテゴリーで抱える問題は多いが、この日の取り組みが宮城県、東北地方、そして日本球界の一筋の光りとなることを願いたい。

(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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