中村紀洋氏インタ(上)フルスイングの“根拠”「ヒットの延長がHRではない」

「N’s method」で野球の指導を行う中村紀洋氏【写真:(C)PLM】
「N’s method」で野球の指導を行う中村紀洋氏【写真:(C)PLM】

中村紀洋氏が明かすフルスイングの“根拠”

 プロ野球のグラウンドを離れて3年が経っても「生涯現役」の信念を曲げることはない。中村紀洋氏は現在、「N’s method」で野球の指導に携わることでチャレンジを続けている。「ヤフオクドームは狭くなったね。あんなの楽勝ですよ」と笑う大阪が生んだホームランバッターは、広い大阪ドームやナゴヤドームを本拠地にしても、お構いなしにスタンドの最深部へホームランを突き刺し続けた。インタビュー前編では、“代名詞”であるフルスイングの哲学から大阪近鉄のリーグ制覇、中日での日本一など、日本で実働22年に渡る激動のプロ野球生活について振り返ってもらった。

「初球からは打たない。真っすぐやったら『1、2、3』で打てて面白くないからね」

 プロ野球歴代17位となる通算404ホーマーを放った中村氏にとって、豪快なスイングから繰り出されるホームランが代名詞であることに異論の余地はない。個性派選手によって彩られてきたパ・リーグの顔として、数多の強打者を輩出した“いてまえ打線”の象徴として、ファンを大いに楽しませた。見事なバット投げや派手な風貌でも話題となったスラッガー。だが、それらはすべて真実であっても、野球選手・中村紀洋のすべてではない。

「チャンスになったら、それまで見逃していた初球のボールをカーンと打ちます。相手は『見逃していたのに』となりますよね。そこはデータが頭の中にある。ピッチャーの心理を考えても、こういう場面ではほとんどストライクゾーンにボールが来ます。ただフルスイングをしただけでは打てないので、予告先発が発表されたら、夜も寝ずにその投手のビデオを見て、イメージしながら全部整理しておきます。前の状況を少し書いておけば、次にバットを構えて相手を見た時にその内容を思い出します。文字を書くことによって『来た!』と身体が勝手に反応するようになります」

 狙ったボールをしっかりと見極めて好球必打――。「豪快」なスイングを可能にしたのは、「緻密」な下準備と「慎重」な姿勢だった。1軍に定着した3年目の1994年から毎年、相手投手に投げさせた球数は1打席平均で4球以上。規定打席に到達した15シーズンのうち、1打席あたりの平均被投球数でリーグ上位5傑に名を連ねること13度、1999年からは6年連続で最多だった。

「そうやって頭を使っていたわけです。『100%こういうボールが来る』と仮定して、フルスイングをしました。闇雲には振っていないです。来た球を打てと言われても絶対無理ですから、頭の中で構想を立てる。レギュラーになってからは考えないと。1試合に4打席回るから、フォアボールが1つとれたら3の1でいい。終わってみれば打率3割3分3厘で凄いバッターです。調子の悪い日はフォアボールを2つ選べば、打率も上がってくる」

「実力のパ」を生き抜くには18.44メートル間の駆け引きを制する、したたかさが必要だった。きちんと振り切ったからこそ、ポテンヒットや内野安打になった打球もある。「ホームランの打ち損ないがヒット」と豪語していたのは、裏を返せば、狙わなければオーバーフェンスしなかったからだ。「だから、僕の感覚では『ヒットの延長がホームラン』とはならないです」と中村氏は語る。狙いとフルスイングが一致して初めて、驚弾が炸裂した。

複数球団を渡り歩いた野球人生、「死に物狂いで、できるところまでやったろうと」

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