プロに「行けるものなら…」 二刀流で甲子園を沸かした元ドラフト候補の現在
ひっそりと拓大を退学、野球にはもうかかわらないつもりが…
3年の9月に野球道具をすべて同級生や後輩に渡し、ひっそりと拓大を退学した。「草野球くらいなら続けるかもしれない」と1本のバットだけを自分のカバンにしのばせた。
高校時代、岸には夢があった。子供好きを公言していた岸は「保育士になりたいんです」と話していたことがあった。だが、あれだけ野球で名を馳せていた岸を見ると、その夢は非現実的だと思っていたが、当時の岸はそれ以前に前を向く気持ちすら消えていた。
「保育士は……確かになりたいとは思ったんですけれど、あくまで夢みたいな感じなんです。“子供がパイロットになりたい”っていう感じで。あの時は何をやりたいとか、じゃあこれをやりますっていうより、とにかく野球から離れたかったんです」
そんな時、母・百合子さんから知り合いを通してある話が舞い込んできた。徳島インディゴソックスの南啓介社長が岸に一度会いたいというのだ。
「正直、最初はまったく会うつもりはなかったんです。もう、野球はやらないつもりでしたし……。やらないのに会って話を聞いても仕方ないじゃないですか。そうしたら母が会う日取りを決めてしまっていたんですよね」
母の熱意に背中を押され、まずは会ってみることにした。球団に興味があった訳ではなく、あくまで会うだけのつもりだった。そこで南社長から球団についての資料や選手名鑑を手にチームの説明を受けた。選手名鑑を見ると、知っている選手の顔が並んでいた。高校時代に練習試合をした相手チームの選手、中学時代に甲子園でプレーしている姿を見たことがある選手……。色んな事情で一度野球と距離を置いた選手が集っていることも知った。
何より入団の決め手となったのは両親への思いだった。