伝説の「10・19」を4番打者が振り返る 阿波野を沈めた同点弾の背景【後編】
8回裏からはエース阿波野が中1日で2試合連続の登板
8回に近鉄がブライアントの一発で4-3と勝ち越すと、その裏から再びエース阿波野がリリーフのマウンドに上がった。阿波野は前々日の阪急戦で完投して敗戦投手となっており、中1日で2試合連続の緊急登板だったが、アナウンスされると球場は湧いた。2013年の日本シリーズで、前日に完投した楽天の田中将大が連投でリリーフのマウンドに上がったときと同じような状況である。
この流れからの1死走者なしで打席に入ったのが4番・高沢氏だった。第1試合はベンチに退いていたため、この日初の対戦である。高沢氏は阿波野に自信をもっていた。
「阿波野はこの年についてはよく打っていたんです。僕に対しては、勝負球としてインコースへどんどん放ってくるような配球は少なかったので、スクリュー系を意識して外角だけ注意していれば。セカンド方向を狙っている僕としては比較的やりやすかった」
この試合では、すでに第2打席で1本ヒットを打っていた。そのため打率が上がったことにより迎えられた第4打席である。だが、打席の高沢氏は「もう安泰」とは思っていない。「もっとヒットを」という切迫した心理状態で阿波野の投球を待った。
初球のストレートがボールになった後、2球続けて外に抜けるスクリューボールを空振り。外のストレートが外れて2ボール2ストライクとなり、インコースのスライダーを避けるように見逃してボール。これでフルカウントとなった。
「空振りしたスクリューは、もともと狙っていましたが振ってもバットに当たらなかった。インコースのスライダーはまったく頭にない球で、びっくりして見逃したものがたまたまボールになってくれた。フルカウントとなって、とにかくバットに当てなくてはということだけでしたね」