伝説の「10・19川崎球場」もう一方の主役 有藤氏が語った「あの日」【後編】

意地、誇り、矜持、雰囲気…様々な要因が絡み合い生まれたドラマ

 この抗議は大きくクローズアップされ、優勝の可能性が皆無になったが10回裏を戦わざるをえなかった近鉄選手たちへの同情、そして有藤氏への批判めいたものもあった。しかし、その日の有藤氏の采配、行動は、様々なものが絡み合って偶発的に起こってしまった。野球人の意地、誇り、矜持、球場の雰囲気……そういった、目に見えない多くのものが牛島登板、そして抗議などを作り出してしまったというのは乱暴だろうか。

 当事者の話を聞くほど、理屈やフィクションではない人間臭さが伝わってくる。最高峰のプロの世界とはいえ、究極のシチュエーションで冷静さを保つことは並大抵でない。情や気持ちの変化も戦況に大きく絡んでくるということだ。

 あれから30年が経つ。昭和の名場面は平成をまたいでいく。しかし「10・19」に劣らないほどの勝負、名シーンが、今後も生まれてくるだろう。来るべき19年シーズンの開幕が今から待ち遠しい。

 最後に、有藤通世氏は野球人代表として語ってくれた。

「今の千葉なんて順位が決まった消化試合でも、そこそこお客さんが来てくれる。どこの球場もそう。やっぱり羨ましいよね。人間だから、見ている人がいれば気持ちも高まるよ。だから、どんどん球場に来てほしいし、選手もそれに応えてほしい。選手のさらなる力を発揮させてくれるはずだから」

(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY