「もちろんある」 西武金子一の胸に再び勇気を与えた、秋山翔吾の言葉

秋山にぶつけた疑問「おかしいなと思いながら練習していることがありますか?」

 6月1日に抹消されるまで、1軍では5月24日のソフトバンク戦、翌25日の日本ハム戦でスタメン出場して打席に立ったのが最後。その後の出場は代走で起用された1度のみだ。2軍ではコンスタントにヒットを重ね、圧倒的な打率を残してきた金子一が、実戦の打席から遠ざかるうちにそれまでの“いい感覚”を失ってしまうのも無理はない。マシンや打撃投手を相手に振り込んで、準備を怠らなかったとしても、実際のゲームでの1打席には敵わない。

 ファームでの再調整。打席の中での感覚が戻らない焦りもあったはずだ。それでも、変わらずにひたすらバットを振った。

「(2軍に)落ちてきてから、バットを出す軌道がおかしかったんです。秋山さんには『おかしくなったら下半身から考えろ』と言われたことがあって……」

 秋山との会話の中で、「(感覚が)おかしいなと思いながら練習していることがありますか?」と聞く機会があった。

「『もちろんある』と言われました。あれだけ打つ人でも、そういうことがあるんだなと思いました」

 日本を代表するヒットメーカーの秋山にも、自分と同じように違和感を抱えることがある。疑問に思っていたことをぶつけ、糧にしてきた金子一の胸に勇気が沸いた。来る日も来る日もバットを振り続けた。しばらくしてシーズン序盤のように、再びヒットを重ねるようになった。

 結局、シーズン終了まで1軍に上がることはなかったが、「自分の状態を上げれば1軍でも結果を残せる」と確かな手応えをつかんだ。契約更改の場では球団から「内野のポジションが1つ空く。レギュラーを獲りにいくように」とハッパをかけられた。アップ査定も初めてだった。契約後の会見場では充実した笑顔も見せた。

 高卒で入団し、プロ5年目の昨年「今年が最後だ」という覚悟を持って、やれることは全てやった。そして地道な練習が結実し、あの日の1本のホームランが金子一の未来を切り拓いた。練習し続けることの尊さを、金子一のプレーが証明してくれる。

(安藤かなみ / Kanami Ando)

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