「楽しくて仕方なかった」 元日ハム西崎幸広氏が明かす黄金期の西武との攻防
「代打か、これはラッキーだなと思いました」
「僕よりも、周りが盛り上がっていきましたね。まずは5回が終わったくらいにお客さんが反応し始めて、6回が終わってベンチに帰ると、今度はチームメイトがみんな知らん顔し始めてね(笑)。それでも、7回までノーヒットは2度していたから、気負いはありませんでした。『おっ』と思ったのは、8回を抑えてベンチに帰ってきた時。『9回は下位打線やな。これはひょっとして……』って思ったんですよ」
ノーヒットノーラン達成まで、あとアウト3つ。9回の表、西武は代打で田辺徳雄を送った。
「代打か、これはラッキーだなと思いました。調子が良かったらスタメンで出ているはず。代打で来るということは、僕のボールを見ていないし、調子もあまり良くない。そうやって、自分のプラスになるように考えたんです。
まずは伊東(勤)さんの代打で田辺が来た。『田辺か、大丈夫だな』って(笑)。その次が奈良原(浩)に代わって上田(浩明)だったんですよ。『あれ、上田はほとんど試合に出ていないな。これは大丈夫だ』となって、最後はトップに戻って佐々木。佐々木とは結構仲が良かったんですけど、『佐々木、ここでヒット打ったら、これから俺にどう接してくるのかな? ……大丈夫だ』って自分に言い聞かせてね(笑)。そしたら初球を引っかけてくれたんですけど、打球は一二塁間の当たりで、実はちょっと危なかった。
三振は12個で1-0の勝利。試合時間は確か2時間くらいでした。うれしかったですね。みんなは『すごいな』って言ってくれるんですよ。ノーヒットを逃した同じチームを相手に、同じ年にやり遂げたっていうのがすごいって」
その2年後、1997年オフ、西崎氏は石井丈裕と奈良原との1対2の交換トレードで西武に移籍した。1987年のデビュー以来、幾度となく好勝負を繰り広げたライバル球団。一時はユニホームを見るのも嫌だった西武の一員として、2001年を限りに現役引退した西崎氏。運命の巡り合わせは、本当に数奇なものだ。
(佐藤直子 / Naoko Sato)