救援投手が先発マウンドへ MLBで流行の「オープナー制」は日本でも有効か

オープナー制導入を検討すべきNPBの投手

 NPB全体という大きな視点で、打者が一巡するごとの成績の悪化を確認した。しかし個別の投手にまで踏み込んだ時、すべての投手の成績がこのように悪化しているわけではない。それぞれの投手で成績の変化にもムラがあるようだ。

 例えば広島の野村祐輔。昨季は打者1巡目のwOBAが.312、3巡目が.342と周回効果が大きかったが、2017年は1巡目が.317、3巡目が.277と、周回したほうがよく打者を抑えていた。

 これは、年度ごとに投手の傾向が変化しているというより、この成績自体に運の要素が絡んでいるためだ。そもそも打球が安打になるかどうかは運が大きく関わっている。この運が純粋な能力の上にノイズとして乗ってしまうため、それぞれの投手の周回効果が見えづらくなってしまうのだ。

 このため、あるシーズンで周回効果が大きいからといって、その投手が本当にそのような能力の投手であるかはわからない。1シーズンの周回効果を見て、すぐオープナーの導入に飛びつくのは危険である。

 イラストに挙げた小野泰己(阪神)と東浜巨(ソフトバンク)は、2017-18年の2年連続で周回効果(1巡目と3巡目の比較)が大きかった先発投手だ。この成績悪化も、周回効果ではなく打者3巡目での不運が2年続いただけという可能性はあるが、例として挙げておく。

2017~2018年、阪神・小野泰己とソフトバンク・東浜巨は特に周回効果が顕著だった
2017~2018年、阪神・小野泰己とソフトバンク・東浜巨は特に周回効果が顕著だった

 特にオープナー制が効果的にはたらきそうなのは小野泰己だろうか。小野は1巡目から3巡目にかけてのwOBAの悪化が2017年は.047、2018年は.033と大きい。昨季後半戦11度の先発で6イニング以上に到達したのがわずか2度と、深いイニングまで投げることができなかったのはこれが原因だろう。

 東浜巨は小野以上にwOBAの悪化は大きいが、2017年に関しては悪化した3巡目でも.305と、NPB平均の.323より打者を抑えることに成功している。このように周回効果がある先発投手でも、そもそもその投手がハイレベルな場合、あえてオープナーを導入する効果は小さくなる。ローテーション中位~下位の先発投手の登板試合で、その投手の周回効果が大きい場合においてオープナー制は効果を発揮しそうだ。

(※1)wOBA(NPB版)={0.692×(四球-故意四球)+0.73×死球+0.966×失策出塁+0.865×単打+1.334×二塁打+1.725×三塁打+2.065×本塁打 }÷(打数+四球-故意四球+死球+犠飛)

(※2)https://www.baseballprospectus.com/news/article/22156/baseball-proguestus-everything-you-always-wanted-to-know-about-the-times-through-the-order-penalty/

(DELTA・佐藤文彦)

DELTA(@Deltagraphs) http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。

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