「実戦感覚は実戦でしか補えない」実戦形式練習で再確認したイチローの哲学

「実戦感覚は実戦でしか補えませんから」と語る理由は…

 昨年の8月21日のことだった。前年2017年に右肩手術を受けてリハビリに専念していた岩隈久志投手(現巨人)が実戦復帰を目指した調整を進める中で、待ち望んでいた打者相手の投球練習を行った日である。その相手を買って出たのが、イチローだった。イチローは第1打席で快音を響かせ、セーフコフィールド(現T-モバイルパーク)の右中間フェンスをワンバウンドで越える鋭い打球を放っている。

 それから4日後、イチローにその一打について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「実戦感覚は実戦でしか補えませんから」

 リハビリ調整ということを差し引いても、捕手と呼吸を合わせ、カーブ、スライダー、フォークを織り交ぜた岩隈との21球の駆け引きを味わえたことは1つの収穫と見ても大過ないと感じたが、イチローはそれを断じた。

 アドレナリンの分泌も少ない味方相手の練習が、さして効果的なものにはならないというのが、イチローの一貫した考拠である。

 この日も周囲の「思い込み」を一蹴するように、イチローは言葉を継いだ。

「そら思ったらいいんじゃないの。俺に振らないでほしいね」

 約300日ぶりに裸眼で追った剛球も、イチローにとって「生きた球」ではなかった。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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