野球人口低下を止めたい― 未就学児1000人を集めた都内高校生らの試み
野球人口が低下している中で果たして人は集まるのか、チラシや駅にポスターなどで告知
次なる課題は、どのようにして、人を集めるのか。各学校で知恵を振り絞った。
桑原理事「初年度ですから、いろんなやり方があってもいいと思いました。私たちの学校では近隣のいくつかの保育園に声をかけました。(高校の)開校記念日が平日にあったので、その日に実施しました。子供たちは野球に興味があってきたわけではなく、いつもと同じように保育園に登園し、先生に連れられてここにきた感じではありましたが、50名ほど参加してくれて、ティーボールを楽しんでいってもらいました。今度は保護者の方にも見ていただきたいですね」
他の学校では近くの児童館に声をかけて、そこに来る子供たちの保護者に制作したポスターやチラシを見てもらい、声をかけた。地元の駅にポスターを貼った学校もあったりした。地域のお店にも配って、お客さんにアプローチもしてもらった。
武蔵野北高校では野球部員、マネージャーら自らが動いた。地元の幼稚園、小学校の数、クラスの数まで調べて、各クラスに10枚は届くようにチラシを制作。生徒たちがそれを配った。生徒たちの自主性や考える力も伸ばす良い機会となった。その結果、40人を超える子供たちが来て、楽しい時間を過ごしていった。
本橋理事「最初はどうなるかと思いましたが、34か所で小学生低学年が587人。未就学児590人。合計で1177人が集まりました」
ティーボール教室の内容や時間は学校によっても異なるが、大体が1時間半から2時間くらいの活動だった。高校生が少年少女たちとペアになり、ウォーミングアップやキャッチボール、投げる、捕る、打つなどの動きを一緒に行った。最後の20~30分は、ゲーム形式でティーボールを楽しんだ。学校によっては、普段の部活の練習時間を割いて、イベントの準備に充てていたところもあった。
高校生も子供たちも、胸には名札をつけて、互いに名前を呼び合う。うまくいったら「イエーイ」と歓声を上げて、ハイタッチを交わす。子供が喜んでいる姿に親も自然と笑顔になった。最後に一緒に記念撮影をするペアもあった。各会場で決められた予算の中で告知や飲み物など運営にかかわるものを用意。中にはお土産を用意したり、親のためにカイロを準備したりする生徒もいた。ちょうど、クリスマスの時期だったため、サンタクロースやトナカイの衣装をそろえたりする学校もあった。
最後は高校生による実技披露で締める学校が多かった。硬式球のフリーバッティングで遠くに打球をかっ飛ばす。子供たちの夢を乗せた白球が外野のさらに奥で弾んだ。「おおーっ!」「すごーい!」。少年たちの目が輝いていく。いつかこの子供たちが野球を始めてくれればいい。大会の応援に来てくれればいい。先生も生徒も、そして参加した子供にとってもかけがえのない時間となったはずだ。
本橋理事「先生も普段、見たことない一生懸命に子供たちに教える生徒の姿に喜んだと思いますし、生徒たちも子供たちから『ありがとう』と言われるのは、うれしかったと思いますよ。子供たちは純粋に楽しかったと感じてくれればうれしいです」
高校野球は勝ち負けだけがすべてではない。ボールを通じて、コミュニケーションをとって、人間としての成長が生まれる。今回は野球振興が大きな目的だったが、生徒たちにも大きなプラスになった。そして、1000人を超える子供たちが集まったことはとても意義のある活動だ。全員が野球に目覚めたかどうかはわからないし、いつか他のスポーツと並行しながら、野球もやるという少年が増えてもいいとも思う。その時に出てきた新たな課題と向き合い、これを継続していくことが何よりも大切なことだ。今後もこのような活動を見守っていきたい。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)