イチローとロッド・カルー、2人が繋がったあの夏 今明かされる、知られざるストーリー

なぜ、ロッド・カルーなのか

 3000本安打に邁進していた2016年の6月、イチローがメジャーの最多安打記録保持者ピート・ローズ氏の4256本を日米合算で抜いたことから、同氏と比較する日本の報道がにわかに騒がしくなっていたが、異国出身、体格、右投げ左打ち、さらには打撃にも共通の理論を持つロッド・カルー氏を視座に据え取材を進めた。

 同年の7月だった。前年の秋に心臓発作に見舞われ腎臓と合わせて移植手術を待つ身となっていたカルー氏は、医師からの許可を得て特別に電話インタビューに応じてくれた。イチローへの手紙を託されたのはこの時だった。

 カルー氏はイチローの打撃を首尾整った論で描破した。

「私は200本のシーズンを4度やったがとても難しいことだ。200安打への道は引っ張るだけの打者ではなかなか到達できない。広角に打てるイチローを見て強烈な印象に残ったのが私の持論である『腕をできるだけ長く体の後ろに保つ』だった。それを見事に実践していた」

「イチローはバットを振る時に上体が前へ動く特徴があるが、体をしっかりコントロールしながら、バットを握った両手を体の前には出さずに後ろに残すことができている。これは秀逸だ。なぜなら、相手の緩急によってたとえ体が前に出てしまっても手が後ろにあれば、最後、バットの操作を利かせることができボールに当てる可能性が生まれてくる。私がこれまで多くの選手に説いてきた『腕をできるだけ長く後ろに保ちなさい』を体現してくれるイチローの打撃を見ていると本当に心が躍る思いになる」

「“バットを振る=腕を使うこと”である。イチローはこの点で『バットを操るアーチスト』と言える。
自分に何ができるのかを理解して打席に立っている打者は少ない。言い換えるなら、イチローは打席で自分を律することができ、してはいけないことを心得ている」

 かつてイチローが「手を出すのは最後。これはやっぱ僕のバッティングを象徴している。手を出さないからヒットが出るということじゃないかな」との論を展開しているが、世代を超えた巧打者2人の打撃論は符節を合わせたように一致している。

 余談ながら、カルー氏の論を「バットが頭の後ろにある」とする表現に「格言」を施すものを目にするが、カルー氏は「一度もそんなことは言っていない」とバッサリ断じている。

感性というもう一つの類似点

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