イチローとロッド・カルー、2人が繋がったあの夏 今明かされる、知られざるストーリー

ロッド・カルー氏から届いた手紙【写真提供:木崎英夫】
ロッド・カルー氏から届いた手紙【写真提供:木崎英夫】

披歴した心奥の思い

 カルー氏はイチローが仰ぎ見る数少ない野球人の一人だ。それを明らかにしたのは2年前の夏、セントルイスでの試合後だった。当時マイアミ・マーリンズの一員だったイチローは7月6日(日本時間7日)のカージナルス戦で2安打を放ち、カルー氏を抜きメジャー通算3054安打で歴代単独24位に浮上。同時に、パナマ出身のカルー氏が持っていた当時の米国外出身選手の通算最多安打を塗り替えている。

 7試合ぶりの先発出場で1本を出した後の8回の打席。相手左腕セシルから今も目に浮かぶ鮮やかな中前へのヒットでランクを上げたイチローが、通算安打に関しての問いかけに珍しく饒舌だった。理由は、優れた人間性を備えた巧打者カルー氏の記録に挑むことが叶ったからだった。

「誰の記録(を抜いた)かということが重要。ロッド・カルーは王さんに通じるものが僕の中にはある。そういう意味で特別な記録、関わりですね」

 日本プロ野球で868本の本塁打を放ちイチローが最も尊敬する野球人が王貞治氏(ソフトバンク球団会長)である。その特別な存在を引き合いに出すと、淀みなく紡いだ。

「(引退してから)時間が経つと、野球のことをすごく簡単に出来ると思う人が多いじゃないですか。でも、あれだけの成績を残した人が、あの雰囲気でいられる。選手として、凄い人はいっぱいいますけれど、時間が経ってからも『この人凄いなって思える』人はなかなかいない。その意味でもロッド・カルーは僕の中で、アメリカで会った人の中では強烈な印象を抱いた人ですね」

 野球から離れたOBや解説者になった人が現役選手の心情に寄り添えなくなっていくのは日米を問わないようだ。懐に抱いていた心奥の思いを臆することなく話すイチローが、カルー氏と初めて言葉を交わしたのは旧ヤンキースタジアムで開催された08年の球宴だった。試合前の打撃練習の際に「君の打つ姿をとても楽しみにしているんだ」と声をかけられている。以後、2人が遭遇する機会はわずかだったが、イチローは人としての品格を直観的に感じ取ったようだ。そして、「この人凄いなって思える」を裏付けたのが、3年前にカルー氏から贈られた「手紙」だった。

3000本を前にイチローがよすがとしたもの

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