子供にも現役選手にも大きな夢を― コンサル企業に就職した元燕左腕・久古健太郎の今
セカンドキャリアを意識 「選手としての期間以上の時間をどう頑張れるかが人生にとっては大切」
2018年12月のスポーツ庁の戦略では、2015年度は5.5兆円だったスポーツ市場規模を、2025年には15兆円にするという目標を掲げている。スポーツ分野での産業競争力を上げたり、スタジアムやアリーナでの収益を強化したり、スポーツを仕事とする経営者や人材の育成、活用に力を入れて新しいビジネスを生み出し、スポーツの場から新しい財源やサービスを生み出したりする社会を目指している。国が目指す“スポーツで稼ぐ国”に変わっていくには、プロスポーツ選手だった人の経験を活かさない手はない。
実際にどんな仕事に携わっているのか聞いてみると、「まだ研修が終わったばかりなんですけど…」とはにかみながらも話してくれた。
「スポーツビジネスにおける顧客ロイヤルティ調査に関する仕事に携わっています。観戦に来たファンの方がどう感じたか、どうしたらファンの方がたくさん来てくれるか、といったことを調査し、それをもとに集客や、クラブチームの地元の活性化を目指すという仕事です。私の野球選手としての現場経験は選手がどのようなファンサービスを行えるか、具体化する上で選手経験者視点の知見を活かせればと考えています」
ところで、久古氏はいつ頃からセカンドキャリアを意識するようになったのだろうか。
「去年はすごく葛藤がありました。競技に集中したい、でも…という感じで。32歳になって自分でも薄々感じるところもありながらで。そんな時、勉強の一環として本を読んでいた中で、だんだんとセカンドキャリアを意識するようになったという感じですね。65歳定年ということを考えた時に野球選手の選手寿命を考えると、多くの選手が残りの30年以上、つまり選手としての期間以上の時間をどう頑張れるかが人生にとっては大切になってくると思うんです」
野球への未練がなかったわけではない。ただ、野球選手でいることがすべてではない。思い切って決断し、第一歩を踏み出した。これからの目標、ビジョンもすでにしっかりと見えている。
「セカンドキャリアでは、“スポーツ選手”とい経験自体を大きなキャリアとして世の中から認めてもらうことを最終目標に掲げています。今はスポーツ選手のセカンドキャリアをサポートする制度が十分に整っていません。プロ野球選手でもまだまだなのでマイナースポーツだともっと大変。野球選手という大きな夢を持って頑張っている実力のある人でも、先々何があるかわからないから他の道も選べるように、英語をやりなさい、パソコンを勉強した方がいいなどと言われることが多いですよね。もちろん英語はメジャーに行く時に役立ちますし、パソコンも使えると便利です。でも、スポーツ選手なんて将来つぶしが利かないから、といった発想はなんだか夢がないなと思うんです。だから、野球選手を目指すことがその後のキャリアも含めて“素敵な夢”になるようにしたい。スポ―ツ選手になれば、セカンドキャリアにも夢があるよって。こういう大きな目標を持ってやっていれば、それに付随して自分も向上できる気もしているんです」
彼は今、自分の「成長記録」をつけている。新しい自分を見つめ、どんなことに苦労したか、どんな発見をしたかを日々、ペンを持って、綴っている。新たな道に進んだ彼の努力や発見が、今までにない道を作り、現在の選手たちに、またこれからプロ野球選手を目指す子どもたちに夢を与えていく。戦力外という経験をプラスに変えたい、という男の新たな野球人生のノートにはたくさんの野球、スポーツへの愛があふれ出るだろう。
(新保友映 / Tomoe Shinbo)