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長嶋監督と松井氏、暗闇の中の素振り スイングの音の違いが分かるもう一人の男

巨人・長嶋茂雄終身名誉監督が2日の阪神戦(東京ドーム)を観戦した。約10か月ぶりに公の場に姿を見せた。御前試合で巨人は阪神に快勝。ミスターから大きな力をもらった。

「本当に監督の言っていることは合っているの?」

 ある時、三井氏は松井氏に聞いた。

「監督は『いい』とか『今のは良くない』とか言っているけど、本当に監督の言っていることは合っているの?」

 半信半疑で聞くと、松井氏からはこのように返ってきた。

「それがさ、合っているんだよ。いい音がした、と言われた時は振り抜けた感じがあるんですよ」

 三井氏は「そのときから、まじめに聞こうと思いましたね」と猛省。呼ばれるたびに音を必死に聞き分けた。

「だんだんと、分かるようになってきました。いい音は“ピュッ”みたいに高い音というか、そういう音で、悪いときは“ブーン”みたいな感じ。音が鳴る場所も違うんです。いい音がするときの場所はいつも決まっていましたね」

 三井氏は違いの分かる男になっていた。

 ナイターが終わるとスコアラーは、試合のデータをまとめ、次の試合に向けた準備をする。東京ドームの時計が午後11時を回った頃、三井氏は都内に住む松井氏から電話で「素振りを見てほしい」と呼び出され、部屋に行ったことがあった。

 気が付けば、朝5時まで振っていたこともあった。自分のスコアラーの仕事はそのあとになった。

「帰らせてくれよって内心思っていましたけど(笑)。というのは冗談。本当によく練習する選手でした」

 電気を消して、三井氏は汗だくになってバットを振る松井氏のスイングの音を聞いていたという。ミスターと一緒に聞いていた音の違いを正確に松井氏に伝え、スイングの音が鳴る位置も伝えた。不振になった時、松井氏はスイングをして取り戻していった。松井氏も三井スコアラーに信頼を寄せていた。

 松井氏はミスターと離れたところでも、このように電気を消して黙々とスイングをして、形を作っていた。音の違いは松井氏の打撃に大きな影響を及ぼすものだった。

プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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