「自分がビッグ4と呼ばれるのは…」―星稜・奥川を成長させる“謙虚”な姿勢
素直に相手を称えられる謙虚さと飽くなき向上心
聞こえ方によってはこれらの言葉はネガティブとも捉えられるが、奥川を一言で表すと“謙虚”な17歳だ。マウンドに立てば剛速球を放つ高校生トップクラスのエースの風格を見せるが、実際は目立つことが大の苦手。新聞などでよく見る注目選手らと並ぶ4ショットなどの写真は、実は「あの中には本当は入りたくない」と本音を漏らす。
選抜の開会式では、大会関連のほとんどの雑誌で表紙を飾ったこともあり、注目度ナンバーワンの奥川に声を掛けようとする他校の選手が多く集まったものの、列の端っこで1人ひっそりと式が始まるのを待っていた。その日に大一番・履正社戦を控えていたため、気持ちを整えていたというのもあるが「知らない人といきなり話せないんです。ああいう場は……できればそっとしておいてほしい」と苦笑いを浮かべる。
昨秋、明治神宮大会の初戦で広陵(広島)を相手に7回を3安打11奪三振無失点と完璧なピッチングを見せたが「三振は取れましたけれど、広陵さんは良い打者が多いし、しっかり振り切られた三振ばかり。崩した三振はほとんどなかった」「ボール1個分のコントロールを間違えば打たれていた球もあったので、コントロールがまだまだ甘かった」など、反省点ばかりを挙げていた。数字だけを見れば完璧なピッチングをしても、重箱の隅をつつくように自分の課題を探しだし、今後の糧にする。どれだけ周囲から称えられても現状には満足せず、その次を常に見据える。こういったブレない姿勢が奥川恭伸という投手をさらに成長させている。
昨年は2年生ではただ一人、U18日本代表に選ばれた。国際大会を知る者として今回の日本代表候補の中でリーダーシップを取れているかという記者の問いに「まだ、そこまでのレベルではありません。自分は下っ端です」と、また自嘲気味に話し、記者を笑わせた。練習中は笑顔を絶やさず、共に練習する選手が自然と奥川のもとに寄っていき、談笑するシーンが多かった。いきなり初対面の者とは話せない人見知りの性格ではあるが、2泊3日で寝食を共にした仲間とはコミュニケーションを深め、「特にピッチャーはほぼ仲良くなりました」と高校生らしい笑顔を見せた。
朗らかな人柄も奥川の良さでもある。自己を冷静に分析し、素直に相手を称えられる謙虚さと飽くなき向上心を持ち合わせた奥川恭伸がこれから歩むその先に待っているものは――。選抜では悔しさとともに甲子園を後にしただけに、高校野球を最高の形で完結させる奥川の姿を期待せずにはいられない。
(沢井史 / Fumi Sawai)