打はデスパイネ、投は千賀と鷹コンビ躍動…セイバー目線で選ぶ5月月間MVP【パ編】
千賀のシーズン奪三振率11.96は1995年の石井一久の11.05を上回るハイペース
○5月月間MVP パ・リーグ投手部門
千賀滉大(福岡ソフトバンクホークス)
登板5 3勝1敗
FIP2.34 QS率100% RSAA 6.79 奪三振43 奪三振率10.75(リーグ1位)
防御率1.35 WHIP 0.70
有力候補の成績を振り返ってみましょう。
千賀滉大
登板5 3勝1敗 防御率1.75 奪三振43 奪三振率10.75 被打率.195
山本由伸
登板4 2勝1敗 防御率1.30 奪三振22 奪三振率7.16 被打率.225
榊原翼
登板5 1勝2敗 防御率2.38 奪三振29 奪三振率7.68 被打率.164
増井浩俊
登板11 1敗8S 防御率 2.61 奪三振10 奪三振率8.71 被打率.162
秋吉亮
登板10 7S 防御率0.84 奪三振7 奪三振率5.91 被打率.135
月間無敗の先発投手がいないため、どこを基準にするかによって評価は分かれるところでしょう。勝利数、奪三振に重きをおけば千賀、防御率に重きをおけば山本由伸が選出されることになると予想されます。
山本は4月も防御率1.45、奪三振率8.13、WHIP0.65とかなり優秀な成績を収めていたのですが、それ以上に有原航平の成績が優れていたこと、自チームの攻撃陣からの援護率が0.55と勝ち運に恵まれなかったことがあって月間MVPを逃しています。5月もそれに匹敵する活躍を見せたことによって公式の月間MVP最有力候補に推すメディアも少なくありません。
ちなみに候補の中にオリックスの投手が3人いることからわかるように、オリックスの投手陣は頑張りを見せています。5月の月間防御率は先月より改善し3.68でリーグ3位の成績なのですが、月間援護率はたったの2.61。3、4月の3.23よりも減少しています。これでは投手陣も浮かばれません。
それでは、セイバーメトリクスによる評価をみてみましょう。
千賀滉大
FIP2.31 WHIP1.06 QS率 100% HQS率60% K/BB 3.07 RSAA 7.94
山本由伸
FIP3.45 WHIP1.05 QS率 75% HQS率75% K/BB 3.67 RSAA 2.71
榊原翼
FIP3.88 WHIP1.00 QS率 100% HQS率 60% K/BB 1.93 RSAA 1.67
増井浩俊
FIP2.06 WHIP0.77 K/BB 5.00 RSAA 2.61
秋吉亮
FIP3.87 WHIP0.75 K/BB 2.33 RSAA 0.54
被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価するFIP、6回以上登板で自責点3以内に抑えた割合を示すQS率において千賀が他に抜きん出ています。千賀は5月のみならず、開幕からの先発登板19試合すべてでQSを達成しています。
さらにRSAA(Runs Saved Above Average)という、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標
(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9
による評価でも千賀はリーグ1位の成績を残しています。よってパ・リーグの月間MVPとして千賀を推挙いたします。
なお、千賀と山本の投球の類似点は、フォークとカットボールによって多くの空振りを奪うスタイルだということです。千賀はさらに今季ストレートに磨きをかけ、160キロを超えるストレートを連発しています。そのためストレートでも空振り率が10%を超えているのです。
千賀は4月に4試合連続2桁奪三振を記録し、5月も5試合の奪三振が9、8、9、9、8と2桁まではいかずとも大量の三振を奪っています。ここまでのシーズン奪三振率11.96は、1995年に石井一久(当時ヤクルト)が記録した11.05を上回るハイペースです。
鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。