巨人坂本勇、阪神高橋遥… セイバー目線で選出する7月の月間MVP【セ編】

投球回数少ないが、RSAA抜群の高橋遥

7月月間MVP セ・リーグ投手部門

○高橋遥人(阪神)
登板3 1勝0敗 FIP1.69 RSAA4.65 K/BB3.57 防御率1.77 WHIP1.18 奪三振率11.07 QS率66.7%

 公式の月間MVP候補の有力選手は以下の3人と考えられます。

クリス・ジョンソン(広島)
登板5 2勝2敗 完封1 防御率1.74 奪三振26 奪三振率 7.55 被打率.198

山口俊(巨人)
登板4 3勝0敗 防御率4.25 奪三振37 奪三振率11.22 被打率.193

浜口遥大(DeNA)
登板5 2勝0敗 防御率1.84 奪三振25 奪三振率7.67 被打率.184

 勝利数と奪三振の成績で見れば、山口俊が優位。ただ、防御率4点台がどう評価されるでしょうか。防御率1点台はジョンソンと浜口ですが、2勝負けなしで被打率リーグ1位、月間首位のDeNA所属ということもあり、浜口の方が有力であるとの見方もあります。しかし、高橋の成績も上記の3人と比較して遜色はありません。

高橋遥人
登板3 1勝0敗 防御率1.77 奪三振25 奪三振率11.07 被打率.230

 なぜ高橋遥が公式月間MVPの有力候補から外れているかというと、月間の規定投球回数(22イニング)に達していないからです。しかし、その貢献度をセイバーメトリクスの観点で評価すると、前述の3選手に引けを取らない好成績であることが分かります。

高橋遥人 FIP1.69 WHIP1.18 QS率66.7% HQS率66.7% K/BB3.57 RSAA4.65 被本塁打0

クリス・ジョンソン FIP2.96 WHIP0.94 QS率80% HQS率40% K/BB3.71 RSAA2.73 被本塁打2

山口俊 FIP3.19 WHIP0.94 QS率50% HQS率25% K/BB5.29 RSAA1.86 被本塁打4

浜口遥大 FIP3.63 WHIP1.06 QS率60% HQS率20% K/BB1.92 RSAA0.39 被本塁打2

 高橋遥は被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価するFIPでリーグ1位に匹敵する数値。6イニング以上で自責点3以内に抑えた割合を示すクオリティスタート(QS)率は66.7%でジョンソンの80%を下回っているが、7イニング以上登板で自責点2以内に抑えた割合を示すハイクオリティスタート(HQS)率では高橋遥の方が上になります。

 つまりQSを達成した試合は全てHQSを達成しています。そして(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9という計算式によって、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAにおいて、高橋遥はリーグ1位になります。RSAAは投球回数に依存しており、投球回数が少なければ不利になりますが、高橋遥のRSAAはそれを凌駕しています。よって高橋遥を7月の月間MVPに推挙します。

 入団2年目の今季、開幕当初は2軍でしたが5月5日の今季初登板からここまで先発ローテーションの一角を担っています。左腕で最速152キロの直球を投じ、ツーシーム、カットボールを駆使して三振の山を築いています。ちなみに、7月の奪三振25のうち見逃し三振は9で全体の36%を占めています。この見逃し三振の多さは「奪・見逃し三振王」こと岸孝之(楽天)に匹敵。ストレート、ツーシームでの見逃し三振が多いですが、ストレートで空振り三振も取れる力も備えています。ただ、ここまで援護に恵まれず、8月4日時点でシーズン援護率は2.03と防御率2.65を下回っています。この援護のなさは山本由伸(オリックス)の2.20を凌いでいます。

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。近著に『統計学が見つけた野球の真理』(講談社ブルーバックス)『世の中は奇跡であふれている』(WAVE出版)がある。

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY