ロッテ福浦の幻に終わった1打席 親友・松井稼と誰も知らないセレモニーの真実
短い言葉の中にあった2人の思い「おめでとう」「ありがとう」
しかし、安打はなかなか出ない。中飛、遊飛、四球で試合は終盤の8回まで進んだ。先頭打者として巡ってきた4打席目。この日の最後の打席になるかもしれない場面でライオンズはマウンドに4番手として左の小川龍也投手を送りだした。
外角へと逃げていくスライダー。狙ったわけではなく必死に食らいついて、バットを合わせた。打球は低い弾道を描き、芝の上で跳ねた。右翼手が打球処理まで時間を要するのを確認すると、躊躇なく二塁を陥れた。最後は足から滑り込み、偉業は達成された。ベース上で両手を掲げ、大声援に応えた。すると三塁側から大きな花束を手に嬉しそうに駆け寄ってくる友の顔があった。サプライズ演出だった。
「ベンチ入りしていなかったのでどこかで見てくれてはいると思っていたけど、まさか花束を持ってグラウンドまで駆け付けてくれるとは想像していなかった。ビックリした。でも本当に嬉しかった」
抱き合った。18歳から42歳のこの日まで一緒にプロ野球で切磋琢磨しながら戦ってきた。2人にしかわからない想いがあった。
「おめでとう」
「ありがとう」
交わしたのは他愛もない言葉だが、その中には色々な思いが詰め込まれていた。わずかな時間が無限に感じられた。
「ライオンズ戦で稼頭央くんの前で打ちたいとは思ってはいたけど、本当にそうなるとはね。8連戦の最後で、もしかしたらこの日の最後の打席になるかもしれないという場面で達成できたのはなんか信じられないよね。稼頭央くんの顔を見た時に、色々な思い出が脳裏をよぎった。彼がいたから今の自分はいる」