無名の公立高校生がたった1年でドラフト候補に BCリーグが持つ夢とロマン
埼玉・桶川西高3年春まで内野手だったBC武蔵の松岡洸希投手は複数球団から調査書
1年後の自分の姿を想像してみる。何となくはイメージできる。だが、夏の県大会1回戦敗退の無名の高校生内野手が、NPBに、それも投手としてドラフト会議で指名されるなんて、想像できるだろうか。今年、そんな夢物語が実現するかもしれない。ルートインBCリーグ・武蔵ヒートベアーズに所属する松岡洸希投手。19歳の右腕だ。
昨年まで全国的に無名の1人の高校生選手が、今、複数球団から調査書が届いている。リーグの代表・村山哲二氏は「もしかしたら、(BCリーグの選手の中では)一番多くの調査書が届くのではないかなと思っています。まだまだ高校を卒業したばかりの、あどけない表情の子。去年の今頃はNPBから注目されるなんて思ってもいないでしょうから……」。驚きと期待が交錯する。
松岡は今でこそ最速147キロのストレートに、切れ味鋭いスライダー、カットボール、チェンジアップを武器に制球良く投げ分ける投手だが、桶川西高3年の春まで内野手。春からは控えの投手を兼任し、練習をし始めた。迎えた最後の夏の大会は前年、夏の甲子園を制した花咲徳栄に初戦で当たってしまい、1-10で敗れた。松岡は4番・三塁で出場し、3打数3安打と孤軍奮闘。しかし、ピッチャーとしては2番手でマウンドに上がるも花咲徳栄打線を抑えられなかった。自責3という苦い記憶が残った。松岡が在籍した3年間は夏の大会すべて初戦敗退だった。
地元の埼玉県を拠点とするBCリーグ・武蔵に入団。「投手の方が面白かったので、投手でやっていこう、と。ただ、肘を痛めてしまってオーバースローで投げられなくなってしまって……」角晃多監督と片山博視コーチのアドバイスでサイドスローに。元ヤクルト右腕で韓国代表の林昌勇投手のフォームを真似ると、これがハマった。面白いように三振が取れるようになり、投手の本格練習を始めてからたった6か月で、プロのスカウトの視線が集まる投手となったのだった。
松岡だけでなく、大学や社会人チームではなく、卒業後すぐにBCリーグ入りを希望する選手が増えている。1年でNPB入りできる可能性があることや、リーグがセカンドキャリアを支援しており、翌年、野球を続ける、続けないを別にして、各球団ごとに就職セミナーを行い、就職先を斡旋しているのも大きい。野球への夢を諦められない18歳をBCリーグに挑戦させる指導者も増えている。そのため、リーグのレべルも少しずつ上がり、NPB入りする選手も増えてきている。
村山代表は「NPBへの近道として、期待できる選手が集まってきています。(松岡は)昨年まで高校生。チームで投球制限もして、体を大切にしながら成長していっている姿は、僕らも見ていて楽しいです。本気でNPB入りを目指している子は、野球への意識が高いので短期間でうまくなる」と、たくさんのスカウトに松岡への思いを伝えていた。
しかし、ルートインBCリーグの一番の目的はNPBに選手を送り込むことではない。「一生懸命、成長していく姿を地域の人たちが追いかけ、応援をする。そんな選手の育成物語を作りたいんです。子供たちに夢や勇気や感動を与える選手になってほしいですね」と語る。夢とロマンが詰まった新たな「育成物語」がこの秋に誕生する予感がする。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)