大手証券会社から日本ハムのアナリストへ 「僕は野球好きで研究好き」【パお仕事名鑑 Vol.9】
選手によってデータの捉え方も違うし、求められる提示の仕方も違う
ただ、あくまでもこれは素材であって、万能ではないと野本さんは考える。
「数値がわかったら上手くなるかっていったらそうじゃない。例えばある投手の回転数は平均でこのぐらい。それを今、もっと上げるべきなのか、そもそもそれが悪いことなのか。数値を知ってしまうことで、今まで自信を持って投げていたストレートが投げられなくなることだってあるかもしれません。そこは最大限の考慮をしなくてはいけない」
その投手のデータを改善するための練習方法なりフォームなりがわからない中でやみくもに練習に取り組んでも、ケガにつながったり、今まで培った技術を失ってしまうことだってあるかもしれない。
「トラックマンデータの一部の数値に着目して、その値を高い順番に並べたとしても、1軍の勝利数と比例するわけではありません。ですからデータの扱い方は非常に難しい。難しいと思ってデータと向き合わなければいけないのかなと思っています。僕は野球好きで研究好きですから何でも分かりたいし、追求したいし、それが現場に役立ってほしいなっていう思いは非常に強い。だからこそ、果たして本当にそうなのか? という疑問を常に持っておくべきだと思います」
ファームには、自身の経験に裏打ちされた感覚値を持つ調整中のベテランがいて、これから1軍で頑張っていこうという10代の新人もいる。データの捉え方も違うし、求められる提示の仕方も違うだろう。中長期の底上げに必要なデータの生かし方もある。
「これから鍛えていく若手において必要な情報と、既に自分の型を身に付けている人が欲する情報は違う。データ分析している僕がいて、プロ野球の世界で自己を上達させるプロセスを経験してきたコーチがいて、今まさに悩んでいる選手がいて、この3人が揃って、話し合える場というか、適切なコミュニケーションができることが大切だと思います」
野本さんは探究心のあまり、つい熱がこもってしまうこともあるという。その時、選手と一番近いところで接しているコーチたちが、適切にデータを選手へのアドバイスにつなげてくれる。この信頼感が良いコミュニケーションとなり、数値を生きたものにしてくれるのだ。
現在ファイターズには野本さんを含め4人のアナリストが活動している。3人は北海道、野本さんは千葉県鎌ケ谷で活動する。
「それぞれ色があっておもしろいです。国立大学出身の元プロ野球選手に、アメリカの大学の野球部への留学経験のある元広告マン。そしてプレー経験がないシステムエンジニア。皆、野球界の常識にとらわれていない。それがおもしろい。指導現場においては、最終的な意思決定はコーチや選手がするわけで、僕らが出す情報=答えではありません。いろいろな観点からの情報があるほうがいい」