【野球と記録】野球はなぜ「記録のスポーツ」に? 刊行物からセイバーメトリクスへ
「Baseball Reference」は、月間100万人のユニークユーザーをもつ巨大なサイトに成長
21世紀に入り、インターネットが普及すると「記録サイト」が誕生した。2000年にセイバーメトリクスの研究家によって創設された「Baseball Reference」は、月間100万人のユニークユーザーをもつ巨大なサイトに成長。
「Baseball Reference」は、現在のMLBで最も重要視される選手評価の指標であるWAR(Wins Above Replacement)を発表しMVPなどMLBの選手表彰に大きな影響を与えている。
また同サイトは、ニグロリーグや独立リーグの過去の記録も発掘している。さらにNPBの記録もすべて収録。最近はKBOの記録を収録したほか、NPBのイースタン、ウェスタン両リーグの記録の収集も始めている。アメリカには、ほかにも同じくWARを発表している「FanGraphs」、「Baseball Almanac」、「Baseball Prospectus」、「Baseball Cube」などの野球記録サイトがあり、いずれも多くのアクセスを得ている。
記録サイトがここまで広がった背景には「ファンタジーベースボール」というゲームが流行したことがある。メジャー球団のオーナーとなって、実際のMLBの記録をもとに勝敗を争うこのゲームは、1980年代に広まり、今では数百万人の愛好者がいる。彼らはシーズン中は毎日のようにMLBの記録をチェックして一喜一憂している。
MLBでの野球記録が占めるウエイトは、日本では想像できないほど大きい。一般のファンであっても野球は「記録で語る」ことが一般的になっている。
アメリカで野球記録がここまで普及した背景には、MLBが公式記録を民間にゆだねたことが大きい。「エリアス・スポーツビューロー」をはじめとする民間の記録会社は、記録をビジネスにするため、様々なビジネスモデルを考案した。
MLBは1970年代まで公式記録を新聞記者にゆだねていたが、新聞社が記者の負担に難色を示したため、1980年に初めて公式記録員を雇用。以後、公式記録はMLB機構によって発表されているが、公式記録はMLBやチームだけでなく、メディア、そして一般のファンの「共有物」となっている。誰でも記録を見ることができ、それを活用できる自由さが「野球記録」を大きく普及させたと言ってよいだろう。
(広尾晃 / Koh Hiroo)