巨人育成の心の「扉」を開く仕事 元盗塁王・藤村コーチが学びをやめない理由

巨人のコーチとなって若手を育成する藤村大介3軍コーチ【写真:荒川祐史】
巨人のコーチとなって若手を育成する藤村大介3軍コーチ【写真:荒川祐史】

「分かり合えるまで話せばいい」ITも活用 いまどきの選手の人心掌握術

 若くして指導者の道を歩み始めた元盗塁王・藤村大介巨人3軍コーチが、1年目のコーチ業を「学びの多い1年」と振り返った。自身は高校時代に熊本工で甲子園に出場し、2007年高校生ドラフト1巡目で巨人入り。2011年5月に1軍初出場を果たした。タイトルも獲得したが、プロの高い壁にぶつかった時期もあった。果たして自分が教わってきたことは正しかったのだろうか。今の選手たちに合っているか……そんな疑問を解消しながらの1年だった。その中でずっと守ると決めたことがある。「学ぶことをやめない」、と。

 5年ぶりのリーグ優勝を果たし、1軍メンバーがハワイへV旅行をしている頃、ジャイアンツ球場では育成選手練習が行われた。今年は育成ドラフト1位だった山下航汰外野手が支配下登録され、1軍出場を果たした。選手の能力を引き出すファーム、特に育成選手を多く束ねる3軍コーチも重要な仕事だ。

 藤村コーチは2017年に現役引退後、幼児から小学生を指導する「ジャイアンツアカデミー」のコーチを務めた後、昨年末にファームのコーチとなった。アカデミーコーチの時はすぐに砂遊びをしてしまう子供たちを振り向かすために、あの手この手を考えて、野球を触れさせてきたが、プロを教えることになっても課題は山積みだという。

「もっと『こういうことをやりたい』と毎日、感じながらやっていても『今日はここまでしかできなかった……』と一日が終わってしまう。自分がやりたいと思っていても、向き合っている選手は1人ではないですし、選手たちの意見もあります。僕がいいと思っていることも、選手にだって自分が正しいと思ってやっていることもありますし……」

 就任当初はなかなか選手が「変化」を起こしてくれなかった。「変えた方がいい」と“一方通行”と言える指導は簡単ではあるし、もう時代に会っていないと感じている。返事をする人、しない人。伝えたことをすぐ実践する選手、全くしない選手、やろうとしてもできない選手。それぞれに伝え方、引き出し方を変え、コミニュケーションを取ることに重点を置いた。

「言ったことをやってないじゃん!!と、言ったら、耳を閉じてしまう選手もいます。おそらく、これまでの野球人生で怒られることに慣れすぎて、“怒る”という行為をしただけで、『この人の話はもう聞かない』という風になる子も今の時代にはいます」

 そういうタイプの子には自分自身の中でルールを決めている。ここまでのラインは怒らないで、冗談を挟む……。その反応を見て、強めに言うか、そうではないか。そこまでするのはなぜか――。藤村コーチ自身がその選手のことをもっと知りたいからだ。

「何が大事かと言ったら、選手とコミニュケーションが取れているか、取れていないかであって、自分の言ったことを、どれだけ聞いてくれるかか決まる。僕のコミニュケーションが一番大事なのかなと思います」

 声をかけても反応が悪い選手もいた。環境次第では、そのまま放置され、孤立し、周りから手を差し伸べられないことだってある。ただ、藤村コーチは高校卒業して間もない選手や、まだ社会に出ていない若者を見放すようなことはしたくない。反応がないのは、自身のコミニュケーションが不足しているからと認識した。

「分かり合えるまで、真剣に相談してくるように、話せばいいと考えるようになりました。そこは僕がコーチとしてないがしろにしたくないところですね」

 最初は首をかしげながら返事しかしないような選手が「さっきの(教わったこと)僕はこう思うんですけど、どうですか?」と自発的に質問してきた。閉まりっぱなしだった“心の扉”をいくつか空けることに成功した。まだまだ難しいと感じているが、手応えも感じてきている。

コーチ就任時に選手たちに伝えたこと「コーチは味方だからね」 自分の経験から導いた言葉

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