ヤクルト2軍球場が台風被害に遭った意義 「絶望的」からの復旧まで道のり
選手たちの用具も被害に、原因の一つは菌の付着、熊田寮長も“注意できたはず”と反省
ただ、作業は進めなければならない。最初の目標は11月に戸田で秋季練習をする選手が、外野でランニングやキャッチボールをできるようにすること、また12月にトーナメント大会に出場するスワローズジュニアが練習できる状態に整えることとした。
グラブやバットなどは写真を撮り、思い出のあるものであれば保管しておくと宮崎にいる選手たちに伝えたが、菌などが付着している恐れがあるため選手たちも諦めて全て処分。特に大切な道具は日頃から持って帰ることは注意できた点だったと反省し、必ずこの経験を次に活かす決意をしたという。
グラウンドの芝生も水で流し、大量の砂利やごみを拾った。汚泥は乾くと塊になり、それらを一つ一つ拾う作業は骨が折れた。球場横の陸上トラックは高圧洗浄機で流せば綺麗になったが雨が降ると、天然芝からにおいのきつい汚泥が染み出てきてトラックへ流れてきた。
多くの人の手も借りて、何とか目標の秋季練習には間に合わせることができた。だが、被害は広範囲で市の作業は思うように進まず、12月上旬、熊田さんたちが市役所でなるべく早い開放を交渉した結果、やっと12月28日に河川敷につながる道路の封鎖が解かれた。公園の一部も利用できるという方針が示され、新人合同自主トレが無事に実施できる状態に至った。
私は今、ニッポン放送で「ラジオ国土学入門」という番組のアシスタントをしている。その番組パーソナリティで元国土交通省技官の大石久和さんは「国土に働き掛けなければ、国土からの恩恵は得られない」と言う。
私たちが暮らしている国土は、昔の人々が治水をし、本来の川の流れをも変え、大きな被害が起こらないように手をかけてくれたりしているもの。日本は地震もあれば、台風の通り道でもあり、他国に比べ非常に災害の多い国である。また、それらはいつ起こるか予測できない。できる限りの備えをしつつ、その土地がどんな役割を持ち、そこから今どういう恩恵を受け、さらに、将来に渡って我々が何を残していけるのかしっかり考える必要がある。
熊田さんは言う。「災害はまたいつか必ず起きることだから、今回の反省を大いに踏まえて、僕たちがしっかりと伝え続けていくことも大切だと思っています。2月のキャンプから選手たちが戻ってきて教育リーグを開催する頃には、電気系統も含めて完全に復活した状態でできるようにしようという計画を立てているので、是非復興の記念に、そしてヤクルトの応援に足を運んでもらえたら嬉しいです」と。
今回の戸田球場の被害は話を聞けば聞くほどとても大変なものではあった。だが、改めて、いざというときの人命確保のために、計画的に被害に合うところがあるということ、そしてそういった場所をしっかり意識しつつ大切にしていかなければならないということにも気付かせてくれた出来事だった。
(新保友映 / Tomoe Shinbo)