データで検証 「負担の大きいポジションを守ると打撃成績が低下する」は本当か?

しゃがむ・立つなどの負担が大きい捕手ではどうか

 遊撃手と同じく捕手についても、それ以外のポジションを守った場合と打撃成績を比較してみたいと思います。捕手はほかのポジションに比べ、しゃがむ、立つといった動作が多く、遊撃以上に負担が大きいとも考えられます。

 しかし特殊なポジションゆえか、捕手がそれ以外のポジションを守るケースは少なく、遊撃手以上にサンプルを確保できませんでした。参考の域を出ませんが図示してみます。こちらも2014~19年で50打席以上に立った捕手が対象です。

捕手とそれ以外のポジションでのOPS比較【画像:DELTA】
捕手とそれ以外のポジションでのOPS比較【画像:DELTA】

 右に行くほど捕手を守っているときのOPSが高いことを、上に行くほど別ポジションでのOPSが高いことを表します。こちらについても、プロットは破線の上下に散らばっており、捕手が負担の軽いポジションを守ることで優れた打撃成績を残した様子はありません。代表的な例を挙げると、森友哉(西武)は捕手でOPS.907、それ以外で.834、大城卓三(巨人)も捕手で.736、それ以外で.691と、負担が大きいはずの捕手でよりよい結果を残しています。

 にもかかわらずこのような説が広く知れ渡っているのはなぜでしょうか。これについてはそもそも十分な出場機会を得てコンバートした打者の数自体が少ないため、特定の選手の結果の印象が強くなり、守備の負担がなくなれば打撃にもプラスに作用すると考えられるようになったのかもしれません。

 また、この分析手法は数あるうちの一つに過ぎません。常時の出場が難しい40歳を超えるようなベテラン選手のデータばかりを集めれば、負担軽減が打撃成績に好影響を与えるかもしれませんし、もともと持っている能力の高い打者ほど負担の影響を受けやすいということもあるかもしれません。ほかの要因が絡めば打撃成績に影響を与える可能性も0ではないということです。

 しかし、仮にそうした効果が認められたとしても、それは極めて限定的になるのではないでしょうか。負担の大きい守備位置から解放されれば、打撃成績がアップすると見積もるのは避けたほうが良さそうです。

(※1)OPS(On-base plus slugging)は出塁率と長打率を足した値で打者の総合的な攻撃力を示す。

(DELTA・佐藤文彦)

DELTA(@Deltagraphs) http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。

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