昨夏メキシカンL奪三振王・久保康友は所属先未定… リーグの“複雑怪奇”な仕組みとは?

昨季からメキシコでプレーをしている久保康友【写真:福岡吉央】
昨季からメキシコでプレーをしている久保康友【写真:福岡吉央】

夏のリーグは延期されて5月11日開幕、久保は今夏のシーズンもメキシコでのプレーを希望

 実は久保の元には1度、10月下旬に他チームからオファーがあった。ヤキス・デ・オブレゴンからだった。指揮官は、夏ゲレーロス・デ・オアハカで監督を務め、オールスターでは久保がプレーした南地区チームを指揮し、久保を高く評価していた1人だった。だが、球団からのオファーの内容は「11月1日の先発がいなくて困っているのだが、投げられないか? もし投げられるのであれば、了承をもらってメヒカリと契約してもらい、メヒカリからレンタルの形で獲得する」という、急なものだった。

 メキシコには日本のように先を見越して事前に計画的に動く習慣がなく、直前に問題が生じてから対策を講じるのが一般的だ。久保は他チームと契約できる11月20日から逆算し、肩を作る予定にしていたため、オファーをもらった時点でまだ肩は仕上がっていなかった。しかも、日本とオブレゴンには16時間の時差もあり、時差調整も必要になる。久保は「さすがに1週間では無理。中途半端なコンディションで行って打たれてもチームに迷惑が掛かる」と、泣く泣くオファーを断った。文化の違いもまた、一つの壁となってしまった。

 久保は今夏のシーズンもメキシコでのプレーを希望しており、冬の間も日本で練習を続けてきた。だが現在は、新型コロナウイルスの影響で練習を自粛している。家賃未払いなどの契約内容不履行や給与支払い遅延など、多くの問題があったため、昨年所属したレオンでのプレーは希望しておらず、チームも久保をトレード要員として考えていたが、どのチームとも話がまとまらず、1月中旬にリリースされた後、無所属の状態だ。台湾からは一昨年、昨年に続き、今年もオファーが届いたが、久保はあくまでメキシコでのプレーを希望している。

 あるチームの編成担当者は「レオンからは1対複数のトレードを打診された。もちろん久保がいい選手なのは分かっているが、とてもじゃないが応じられるような条件ではなかった」と明かした。昨夏、久保がタイトルを獲得したことで、レオン側は強気の交渉をしていたのだ。そして、久保がリリースされた1月中旬には、すでにほとんどのチームは今季に向けての編成をすでに終えていた。レオンがトレードを諦めず、なかなかリリースしなかった煽りを久保はもろに食らう形となった。

 メキシコのリーグは夏冬ともに、外国人選手に対しても、契約年数が存在せず、選手はチームにリリースされるかトレードに出されない限り、移籍することはできない。逆に球団側は、既存の選手をキープしておき、新しい選手が獲得できたらリリースするという手法で編成を続けていく。そのため夏のリーグの場合、久保のように年明け以降にリリースされたために、次のプレー先が見つけられないという選手が毎年のように出ているのだ。

 今年は新型コロナウイルス感染拡大防止の影響で、夏のリーグ開幕は4月7日から5月11日へと延期された。現在、どのチームもキャンプを中止し、一時解散しており、いつからオープン戦が再開されるのかも決まっていない。メキシコ国内では3月30日、不要不急な外出自粛を1か月間求める非常事態宣言が出されており、開幕が再び延期される可能性もある先行き不透明な状況。だが、久保は再びメキシコでプレーできる日がいつか来ることを、日本で静かに待ち続けている。

(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)

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