【消えた選抜からの道4】無人のグラウンドにたなびく横断幕 帯広農・前田監督の胸中

センバツ中止決定後は全国から励ましの手紙や贈り物が届く

 家業が農業という特徴を生かし、自宅敷地内にあるビニールハウスでティー打撃を行っていた選手も多い。モチベーションや技術の低下といった懸念は不要だった。「(いつ再開しても)個人個人がやっていれば、遅くはない。そこは今回気付かされた部分です。先日学校が始まった時、学校内でのあいさつやグラウンドでの全力疾走も以前と変わっていなかった」と前田監督は誇らしげにうなずいた。

 2月下旬以降、苦難が続く。昨年の秋季全道大会で私立3校を破って4強入りし、21世紀枠でセンバツに初選出された。開校100周年に花を添える甲子園出場。だが、全校生徒の前で晴れやかに行われるはずだった2月27日の選抜旗授与式は縮小され、関係者のみで行われた。同日夕、安倍首相が全国の学校に春休みまでの臨時休校を要請し、翌28日には北海道の鈴木知事が緊急事態宣言を出した。事態は一変し、3月11日には史上初のセンバツ中止が決まった。

 そのまま他の道立校と同様に春休みが終わるまで部活動は休止。今月3日には春季全道大会、同17日には当初無観客で開催予定だった春季十勝支部大会の中止が相次いで発表された。「アドバンテージがどんどんなくなり、夏のシードもどうなるかわからない。選手はショックかもしれないですが、夏の可能性があるから、何とか保てている部分があるのでしょう」と前田監督は話す。

 目標にしていた大会が1つずつ消えていく中、「野球をやりたいという気持ちをしっかり持ち続けられるように」と新たな試合をセッティングした。5月31日に帯広の森野球場で、センバツに北海道地区代表として選ばれていた白樺学園と練習試合を行う。史上初めて十勝支部から2校同時に甲子園出場という夢が消え、涙を飲んだ両校の対決。当初は今月25日に組んでいた予定を再調整した。「この1カ月はそこに向けて頑張ってもらいたいです」と前田監督。選手のために、十勝支部予選が行われる帯広の森野球場を夏の大会までに3回借りることも決めた。

 苦境の中、うれしい出来事もあった。センバツ中止決定後、学校に励ましの手紙やタオルなどのプレゼントが全国各地から届いた。学校に差し入れのドリンクを持って来てくれる人もいた。「ありがたかったですね。中止になったけれど、悪いことばかりではなかったです」と前田監督は感謝する。今夏の北北海道大会十勝支部予選は6月27日に開幕する予定。指導者も選手も様々な思いを抱えながら、その日に向けて、1日1日を大切に過ごしている。

(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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