エースや4番、3冠王まで… 球界を騒がせた大型トレードの歴史
“空白の1日”で生まれた江川と小林のトレード
○1979年
・小林繁投手(巨人)・江川卓投手(阪神)
1978年のドラフトで阪神は、前年ドラフトでクラウンライターの指名を蹴って1年浪人していた法大卒の江川を引き当てた。だが、巨人はドラフト前日の「空白の1日」で江川と契約していたと主張。日本中が注目する大事件となるが、当時の金子コミッショナーの裁定で、阪神が江川を獲得したうえで即日巨人にトレードすることとなった。
阪神が指名したトレードの相手はエースの小林。小林は1979年1月31日、春季キャンプに出掛ける寸前の羽田空港でトレードを言い渡された。江川は1年目は9勝に終わるが、2年目からは8年連続で2桁勝利。悲劇のヒーローと言われた小林は意地を見せて、移籍1年目は22勝を記録して最多勝のタイトルを獲得した。
○1986年
・落合博満内野手(ロッテ)・牛島和彦投手、上川誠二内野手、平沼定晴投手、桑田茂投手(中日)
3度目の3冠王を獲得した落合は恩師の稲尾和久監督の退団に伴い、退団の意向を示す。1986年オフに中日のリリーフエース牛島、正二塁手上川など4選手とのトレードが成立した。中日の主軸となった落合は本塁打王2回、打点王2回の活躍。牛島も移籍から2年連続で最多セーブ、上川も正二塁手として活躍した。
○1988年
・西本聖投手、加茂川重治投手(巨人)・中尾孝義捕手(中日)
巨人で皆川睦雄投手コーチと確執があった西本。1988年オフに、1982年のMVP捕手である中尾との交換トレードで中日へ。移籍1年目の1989年に自身初の20勝、最多勝と大活躍した。中尾も斎藤雅樹の好投を引き出すなど活躍。中尾と西本は揃って1989年のカムバック賞を受賞した。
○1993年
・秋山幸二外野手、渡辺智男投手、内山智之投手(西武)・佐々木誠外野手、村田勝喜投手、橋本武広投手(ダイエー)
1993年に最下位に終わり、根本陸夫氏の下でチーム立て直しを目指すダイエーは、九州出身のスター選手である秋山の獲得を目指してトレードをオファー。西武もこれに応じて、1993年オフに3対3の大型トレードが成立した。
秋山はダイエー移籍後ゴールデングラブ賞を4回獲得、チームリーダーとして40歳まで活躍した。交換相手の佐々木も西武の快速中堅手として盗塁王1回、ゴールデングラブ賞1回と活躍。さらに左腕の橋本も西武の中継ぎ投手として活躍した。
○2013年
・糸井嘉男外野手、八木智哉投手(日本ハム)・木佐貫洋投手、大引啓次内野手、赤田将吾外野手(オリックス)
2012年、糸井はチームの優勝に貢献しベストナイン、CSのMVPも獲得。チームの大黒柱だったが、翌年1月25日に突如オリックスとの大型トレードが発表され、大きな衝撃を与えた。当時31歳と働き盛りだった糸井はその後、首位打者1回、2016年には最高齢(35歳)での盗塁王と活躍し、現在は阪神でプレー。2019年も38歳ながら打率.314(3位)と活躍した。このトレードで移籍した糸井以外の4選手はすでに引退している。
過去には数多くの大物たちによるトレードが球界を賑やかせてきた。最近は大型トレードが少なくなってきているが、トレードにまつわる「悲喜こもごも」の人間ドラマもまたプロ野球の魅力の1つだと言えるだろう。
(広尾晃 / Koh Hiroo)