住宅街を騒つかせた高橋由伸の“早朝練習” 名スコアラーが明かす二人三脚の現役時代
天才打者はなぜ1度もタイトルに手が届かなかったのか、元巨人チーフスコアラーの三井氏が語る
巨人のスコアラーを22年間務め、2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)第2回大会では侍ジャパンのチーフスコアラーとして世界一奪取に貢献した三井康浩氏が、かつての巨人選手の素顔や、他球団との虚々実々の駆け引きを振り返る。現役時代に“天才打者”と呼ばれ、引退後は巨人監督として指揮を執った高橋由伸氏について語る。
スコアラーといえば本来、ライバルチームの選手の傾向や癖を分析することが仕事だが、その鋭い観察眼は味方の選手にも注がれる。三井康浩氏は他球団に先駆けて、野手ミーティングを主導し、選手個々にもアドバイスを与えるようになり、“陰のコーチ”と呼ばれることもあった。1998年から2015年まで巨人の主軸打者として活躍した高橋由伸氏との“二人三脚”は、特によく知られている。
1986年にスコアラーとなった三井氏は、94年の伝説の『10・8』などを乗り越え、高橋氏が入団した98年当時はすでに、にナインから絶大な信頼を得ていた。
当初はミーティングで通り一遍の話をする程度だったが、オールスター明け、高橋氏が調子を落とし、プロの壁にぶつかった頃に、歩み寄った。「『何かアドバイスありませんか?』みたいな感じで相談されたので、打撃フォームとか細かいことはあれこれ言わず、ボールの見切りが少し早いことと、スイングの軌道が一塁ベース方向にずれていることだけを指摘しました。『センター方向へ踏み込んで、バックスクリーンへ打ち込むイメージで振ってみろ』と言いました」
その後、三井氏と高橋氏はバットの軌道を修正するため、毎日のティー打撃に工夫を加えた。背中側から投げたボールを逆方向に打ち返す。あるいは、インパクトの瞬間にバットから両手を離し、正面のネットへ向かって放り投げる。この時、正しい軌道を通っていれば、バットは真っすぐ正面へ飛んでいくが、一塁方向にずれていれば、バットも背中側に飛んでいくのだ。
“天才”と称される高橋氏だが、チームメートになった選手たちは一様に、その練習量の多さに驚かされる。いつしか高橋氏は、ホームゲームの場合、三井氏の自宅に寄って打撃フォームなどをチェックしてから東京ドームへ向かうことが習慣になり、試合後も頻繁に立ち寄るようになった。