「辞めていた可能性もある」 沢村賞2度・斉藤和巳氏を投手に導いた恩師の言葉

本当は好きではなかったキャッチャー、監督の一言に感謝「本当はどこが守りたいんだ?」

 中学生になるとボーイズリーグの京都スターズに入団。ここでも捕手をしていたが、3年生になるタイミングで本格的に投手を始めた。

「僕、キャッチャーが好きじゃなかったんです。全然やりたくなかったんですよ(笑)。でも、運がいいというか、新チームになる時に当時の山崎監督に『お前、本当はどこが守りたいんだ?』って聞かれたんです。そこで『ピッチャー』と答えて以来、ずっとピッチャー。小学6年生になる時も、監督かコーチに『本当はどこが守りたいんだ?』と聞かれて、その時は1年間だけショートを守りました。小中とも一番上の学年になるタイミングで、本当の気持ちを聞いてもらえたんですよ。当時、子どもに聞く指導者はなかなかいないですから、僕は運が良かったと思います」

 特に、中学3年生で投手転向のきっかけを作ってくれた山崎監督には、感謝してもしきれないという。

「そこで聞いてもらえなかったら、僕はピッチャーをやっていなかった可能性もある。高校で野球をやる選択をしていなかったかもしれないですからね。辞めていた可能性もあるかもしれません。山崎監督はもう亡くなられているんですが、今になると本当に親身になってもらっていたんやな、と思いますね」

 もし山崎監督が斉藤氏の本音を聞き出していなければ、沢村賞に2度輝き、プロ野球史上7人目となる投手5冠を達成したエースは、この世に誕生していなかった。何がきっかけで人生が大きく変わるのか、本当に分からないものだ。

 野球に出会わなかった人生を想像すると「ゾッとしますね。とんでもない人生を送っているはずなんで。野球に人生を救われました」と苦笑する斉藤氏。「引退セレモニーの時にも言わせてもらったんですけど、きっかけを作ってくれた兄、子どもの時に続けさせてくれた両親には、本当に感謝です」と話す。

 現在はコロナ禍で野球との距離が遠くなってしまった子どもたちも多いが、こんな時だからこそイメージトレーニングに励むことを勧めるという。

「いろいろな映像を見て、自分でプレーする姿をイメージするといいと思います。そして、外に出て思いきり野球ができるようになったら、イメージしていたものを試してみる。何か工夫する、考える、イメージすることを大事にしながら、野球を身近な存在にしておいてほしいですね」

 もしかしたら、このアドバイスをきっかけに野球を続け、将来プロの門を叩く子どもたちが誕生するかもしれない。人生、何がきっかけになるか分からないのだから。

【斉藤和巳さん情報】
今春よりYouTubeチャンネルを開設。
プロ野球歴代ベストナインの選出や特別対談など面白企画をお届けしている。
斉藤和巳さんのYouTubeチャンネルはコチラから

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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