6月の練習試合で乱打戦頻発…データで検証、開幕延期は投手の調整に影響を与えたのか

球速を球場ごとに比べてみると…

 ここまでNPB全体のデータを見てきましたが、6月に行われた練習試合は通常のレギュラーシーズンと違い、一部の球場で偏って開催される特殊な事情がありました。楽天生命パークや札幌ドームのように試合が開催されなかった球場もあります。ストレートの球速は球場ごとの計測環境の影響を受けるため、こうした要素が2020年のストレートの平均球速を歪めてしまい、例年と比べてそれほどストレート平均球速が変わっていないように見えた可能性は否定できません。

 そこで2020年6月の練習試合と2019年の6月でストレートの平均球速の比較をしました。6月の練習試合がなかった、楽天生命パークと札幌ドームを除いたデータをイラストに示します。

6月におけるストレート平均球速を球場別に比較
6月におけるストレート平均球速を球場別に比較

 2019年との比較では、甲子園での球速が2.2キロと最も上がっています。これについては今季から計測環境が変わった影響が大きいと考えられます。甲子園球場での球速は今季からトラックマンで計測されるようになったという報道がありました。トラックマンによる球速表示は従来の計測法よりも速く表示されることが知られています。

 それ以外の球場に目をやると、球速が上がっているのは東京ドーム、京セラドームだけで、あとは2019年の6月とほぼ同等かわずかに球速が落ちている球場が多いです。最も遅くなっていたのはZOZOマリンの約1.6キロでした。とはいっても一部の球場の計測が全体のデータに大きな影響を及ぼしているというほどではなく、全体的にはこの程度であれば誤差の範囲と見ても問題ないレベルではあります。球場ごとに見ても、少なくともこの球速データからは今年6月の練習試合で投手のコンディションが落ちていたようなデータは得られませんでした。

 ただし、ストレートの球速以外の部分で調整不足が起こっている可能性は当然考えられます。投手のコンディションのすべてが球速に反映されるわけではありません。ただ投手がどれだけスピードのある球を投げられるかがコンディションのバロメータのひとつとして考えられるのもまた間違いありません。6月に行われた練習試合での打高投低傾向をそのまま投手の調整不足とつなげて考えるのは慎重になるべきかもしれません。

[1]季節が成績に与える影響の考察 ~屋内球場編~(https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53622

(DELTA・佐藤文彦)

DELTA(@Deltagraphs) http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(https://1point02.jp/)も運営する。

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