部員全員に送った1枚の手紙…滝川西・松木主将の失われた夏への想い

松木主将が当時の1年生に送ったハガキ【写真:石川加奈子】
松木主将が当時の1年生に送ったハガキ【写真:石川加奈子】

小野寺監督も認める松木主将の成長と人間性

 通常はLINEを連絡手段にしているのに、なぜ今回は手間も時間もかかるハガキを使ったのか。「手書きの方が気持ちが伝わると思いました」と松木主将の答えは明快だった。

 効果はてきめんだった。新チームの主将になった布野は「びっくりしました。同時に内容を読んで安心しました。甲子園がなくなるかもしれない中、3年生(当時の2年生)がバラバラになるんじゃないかと不安だったんです。松木さんがチームをまとめてくれるという安心感が大きかったです」と語る。

 SNS全盛の今、高校生が手紙やハガキをもらう機会はあるのだろうか。布野は「祖母から手紙が来ますが、それ以外は年賀状くらいです。その年賀状も高校に入ってからは少なくなりました」と言う。松木からのハガキは「元気が出る」と何度も読み返した。今でもファイルに挟んで机の上に大事に飾っている。

 小野寺大樹監督が、松木の行動を知ったのは休校期間が明けた6月になってからだった。「あれだけ成長したキャプテンはいません。1人1人に気配りをして、自分のことよりも仲間を思う。凄く優しいけれど、厳しいことも言える。あいつを悪く言う奴は誰もいませんよ」と目を細める。

 臆することなく一発芸を披露できる一方で、何にでも挑戦する姿勢も持っていた。クラスではホームルーム長に立候補し、昨年の合唱コンクールでは指揮者に立候補した。担任だった小野寺監督が松木に主将としての資質を見出したのは、この合唱コンクールでの出来事がきっかけだった。

 伴奏者と呼吸を合わせるため、幾度となく居残り練習をした。当日も本番直前まで真剣に譜面に見入る熱の入れよう。舞台に向かう前には全員で円陣を組んで声を出し、みんなの気持ちを一つにした。元々お笑いキャラの人気者だけに、最初はオーバーアクション気味の指揮に、ドッと笑いが起こったという。だが、不器用ながらも真剣でひたむきさな様子に、場内の聴衆がどんどん引き込まれていった。「途中から鳥肌が立ちました。あいつは人の心を動かす力を持っているんです」と小野寺監督はその時を振り返る。

お笑いキャラだった男が、頼りにされるキャプテンに…

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