「卒業まで引退はないぞ」 来春閉校の江陵が“最後の夏”後も活動を継続するワケ
尾崎主将「監督さんも前代未聞のことをやっている。大きく成長できるチャンス」
練習試合では、相手からのリクエストを受け付けている。「うちはもう大会がないので、“左投手に投げてほしい”とか“一塁に出たら必ず送ってほしい”とか要望に応えることができます」と谷本献悟監督。「後輩のいないうちの子供たちが、(他校の)後輩のために何かするという経験をさせてあげたいという思いもあるんです」と続けた。
同じ校舎内では、今回の学校再編で統合する道立校の幕別清陵の1、2年生が学んでいる。別組織のため、これまで接点はなかったが、この夏休みには、幕別清陵の5人の野球部員との合同練習を初めて行った。尾崎主将は「新鮮でした。2年間後輩に教えることがなかったので、どういう言葉が伝わりやすいのか、言葉のチョイスを考えるようになりました。いい勉強になりました」と目を輝かせた。
5月20日のミーティングで「卒業まで引退はないぞ」と宣言した谷本監督は、難しさを感じながらも新たな挑戦に意欲的だ。「元気があったり、なかったりの繰り返しです。正直何が正解かわからないですが、やり続けますよ。大会が終わった後どう過ごすべきか、本当は入学した時から考えないといけないこと。野球はラグビーやサッカーよりも早く終わってしまう。その後に(後輩たちの)後方支援を目指す文化があってもいい」と語る。
ソフトバンクの入団会見時に古谷が色紙にしたためた「世の為、人の為」という言葉は元々、谷本監督の口癖だ。大会出場の機会はなくなっても、江陵野球部はその看板を下ろすことなく、世のため、人のための活動を模索している。数年前から開いている小学生の野球教室はこの秋も行う予定。「野球にこだわる必要もないのかなとも思います。カボチャや長芋の収穫時期は人手がいるので、農業の手伝いとか。何かしら動いていきますよ」と柔軟な発想で活動の幅を広げていく。
大学に進学して、将来指導者を目指している尾崎主将は「監督さんも前代未聞のことをやっています。毎日が1日1日変化するので、大きく成長できるチャンス。こういう機会をつくってもらって感謝していています」と語る。世のため、人のため。野球を通じた教育は終わらない。
(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)