田澤純一の指名漏れで問われるドラフトの本質 時代に即したルール制定の必要性

海外プロリーグで一定期間の経験を持つ選手を対象にしたルール制定の議論を

 ドラフト会議前に話を戻してみよう。9月に、いわゆる「田澤ルール」の撤廃が決まり、田澤がドラフト指名の対象となった時、球界OBや関係者の間から「果たして海外プロリーグで実績のある34歳を、高校野球を終えたばかりの18歳と同じ土俵で評価するべきなのか」という疑問の声が上がっていた。個人的な意見を言わせてもらうなら、同じ土俵で評価するのはおかしいと思う。だが、現行制度では、日本でプロ球団に所属したことがなく、日本国籍を持つか、日本の中学・高校・大学やこれに準ずる学校に在学した経験を持つ選手は、ドラフトを経なければNPB球団でプレーすることができない。ルールがある以上、今はそれに従うしかない。

 ただ、今後の野球界のことを考えれば、より魅力的なスポーツとなるためにも、NPBを経ずに海外プロリーグでプレーした選手が、NPB球団でプレーしやすい環境の整備は必要だろう。これだけ社会全体でグローバル化が進む中、日本で生まれ育った選手が高校野球を終えた後の進路先として、アメリカの大学を選ぶ可能性は十分にある。アメリカの大学で野球を続け、メジャー球団からドラフト指名を受けるケースも出てくるだろう。もし、こういう選手が5年後、10年後、日本球界でプレーしたいとなった時、現状ではドラフト対象と見なされる。

 日本球界は、社会状況や価値観の変化に応じ、「田澤ルール」を撤廃した。だが、もう一歩踏み込んで、NPBを経ずに海外プロリーグでキャリアを積み重ねた選手は、1軍レベルの登録日数が一定期間を超える場合、例えば6年以上の経験を持つ場合は、フリーエージェントとしてNPB球団と交渉できる権利を与えることを考えてみてもいいかもしれない。

 小中学生で野球をプレーする子どもに憧れの選手を聞くと、次々とメジャーリーガーの名前が返ってくる時代だ。メジャーに憧れ、メジャーリーガーになるための選択を続ける子どもは増えるだろう。同時に、NPBに憧れ、日本でプロ野球選手を目指す子どもが減ることはない。NPBが日本でプレーする選択をする選手たちを大切にすることはもちろんだが、海外でプレーすることを選択し、実績を残した選手たちが、母国である日本でプレーしたいと思った時、条件付きではあってもプレー機会を用意できる懐の深さを持てば、より魅力的な場所として価値を高めるのではないだろうか。

 ドラフト指名されなかったことで、田澤が来季NPBでプレーするという選択肢はなくなった。だが、来季を目指し、すでに始動している右腕にとって、日本の独立リーグ、米球界、それ以外の海外リーグなど、まだまだ現役を続ける道はある。米球界で酸いも甘いもかみ分けてきた田澤の経験が、NPBに還元されないのはもったいない気もするが、今回は縁がなかったということだろう。

 来年は35歳。このオフ、田澤がどんな道を選ぶのか、注目しておきたい。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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