一時は死も覚悟した…大病乗り越えた元中日左腕が“わらび餅”を売り続ける理由

現在はナゴヤドームの近くでわらび餅屋を経営している【写真:福岡吉央】
現在はナゴヤドームの近くでわらび餅屋を経営している【写真:福岡吉央】

吉見一起や大島洋平、荒木雅博コーチらが常連 現役時代に対戦した人らも来店

 中日の吉見一起や大島洋平ら選手、荒木雅博1軍内野守備走塁コーチら球団関係者が店の常連に。さらに、相手チームの監督やコーチ、野球評論家など山田さんが現役時代に対戦した当時の選手らも、名古屋遠征の際に立ち寄ることが多く、店内には多くの色紙が並ぶ。ファンや地元の人の間でも味の評判が口コミで広がり、いつしか敵チームのファンが試合観戦前に足を運んだり、他県からわらび餅だけを目当てに買いに来るようになった。

 だが、ここまで順風満帆という訳ではなかった。知名度、そして山田さんの親しみやすいキャラクターもあり、スタートは成功だった。1日1000箱近く売れた日もあった。だが、反動も大きかった。

「最初はよかった。でも、2、3か月経てば忘れられる。その後、お客さんが1日2人、3人の時もあった」

 それでも諦めず、来客が少なくても店頭に立ち続けた。飽きられないようにと、味も増やした。結婚式の引き出物やゴルフコンペの景品としての注文が入るようになり、百貨店の催事や、出身地である愛知県弥富市の祭りなど、イベントにも呼ばれるようになった。飲食店がデザート用に注文するケースは増え、高校の文化祭用に大量注文が入ることも。正月年賀やお彼岸用に購入する人もおり、遠方からの注文にもパレットで発送対応している。バレンタインの時期には生チョコわらび餅、夏のシーズンにはわらび餅ソフトクリームと、季節に応じたアイデア商品をインスタグラムで発信するなど、常に生き残る道を考えている。

「『美味しかったから、また来たよ』『今まで食べてたわらび餅って何だったんだろうって思った』って笑顔で言われたら、やっててよかったなって思いますね。まずかったら次は買わないだろうけど、2回、3回と使ってくれる。うちは常連さんが多いし、季節に関係なく買いに来られる。お客さんの口コミが一番大きい。本当にありがたいですね」

 ポリシーは、できる限り店頭に立つこと。写真撮影にも気軽に応じる。客の多くが「山田喜久夫の店」と認識して来店しており、山田さんに会うことが目当ての人もいる。そんなひとりひとりの客を大切にしたいというおもてなしの心が、山田さんをそうさせている。

「引退して店をやる人は多いけど、みんな人に任せている。でも、それだと最初はいいかもしれないけど、結果が分かる。店に立たないといけないと思った。そうでないと、いい結果を生まない。会って握手のひとつでもすれば、またよろしくお願いしますっていうのが伝わる。『キクちゃんいたよ』『じゃあ行ってみようか』ってなる。だから配達の時以外は店に立つようにしています」

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