一時は死も覚悟した…大病乗り越えた元中日左腕が“わらび餅”を売り続ける理由

慢性腎不全で死を覚悟…「体も元気になったから、もう1回挑戦しようと思った」

 だが、そんな山田さんをある時、病が襲った。腎臓を悪くし、来客時以外は店の前に停めた車の中で椅子を倒して横になっている日々が続いた。「目の前のスーパーにタクシーで行こうかと思うくらい体がしんどかった」。診断名は慢性腎不全。死を覚悟した山田さんは、3人の息子たちに「俺は終わっていくけど、お前たちは頑張っていけ」と、遺言まで残していた。だが、妹が腎臓を提供してくれることになり、昨秋、移植手術を受け、一命を取り留めた。

「手術しなかったら、慢性腎不全で死んでいた。でも、体も元気になったから、もう1回挑戦しようと思った。妹に感謝しないといけないですね」

 約2か月の入院中は、長男の斐祐将(ひゅうま)くんが仕込みを覚え、山田さんの代わりに店を手伝ってくれた。山田家では3人の息子は皆、父親の後を追い、東邦の野球部に入っている。長男はちょうど高3の夏を終え、部活を引退した直後だった。学校の授業を終えると、毎日店に出向き、翌日用にわらび餅を仕込んだ。一時とはいえ、閉店すれば客足は遠のく。そんなピンチを息子が救ってくれた。

 コロナ禍の現在は、ナゴヤドームへの客足が減っているあおりを受け、売り上げにも影響が出ている。予定されていた東京出店の話も立ち消えた。ナゴヤドーム内のレストランでもパフェなどにわらび餅が使用されていたが、現在は出荷がストップしており、中日のファームの試合が行われるナゴヤ球場での販売も延期となった。それでも、6月からは国産の銀鮭や唐揚げなどを使った手作りの「キクちゃん弁当」の販売を始め、わらび餅もご進物用に化粧箱入りの商品をつくるなど、アイデアをひねり、店の営業を続けている。

「弁当は母校の東邦から注文が入り、始めることにしました。野球の試合会場にも配達できるよう、大量注文にも応じています。ナゴヤドームが無観客、5000人までの時はお客さんも激減したけど、今は少し戻ってきたかな」

 術後は体調も回復傾向にあるが、まだ通院は続けており、薬を手放すことはできない。医者からは新型コロナウイルスに感染すると重症化すると言われており、うがいや手洗いは欠かせない。店も換気をよくするために、冬の間もドアは開けっ放しで営業するという。だが、コロナには負けていられない。山田さんは、その自慢の味を求めて店を訪れる客の笑顔を見るために、今日も店頭に立ち続ける。

「喜来もち ろまん亭」
愛知県名古屋市東区矢田南2-7-5
052-722-3310
営業時間 10時から15時、ナゴヤドームでプロ野球やイベント開催時は17時まで。
月曜定休

【画像】東邦高校のエースとして甲子園出場 平成最初の優勝投手となった山田さんの当時の写真

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