落合博満氏の“失神ノック”は時代錯誤か? 経験者の森野氏が語る覚悟の必要性

異次元の猛練習「僕みたいな選手がいたらやってもいいと思う」

 転機となった約2時間の特守。自身の意識だけでなく、周囲の見る目も変わった。「常にいろんな人に見られている中で、結果を出すのがプロだから」。森野氏が体で示した覚悟は、チーム内に伝播。1.5軍の若手選手は、期待の主力へと変貌を遂げていった。

 あの猛練習が誰にでも有効かと問われれば、森野氏は苦笑いを浮かべて首を横に振る。「僕みたいな選手がいたら、やってもいいと思う」。必要なのは、反骨心や貪欲さ。ただ、ベテランの立場やコーチとして若手選手と接していると、思うこともあった。

「いまの子は、泥臭さや、なりふり構わない姿を恥ずかしいと思っちゃうだろうね。ミスしても笑顔が出ちゃう。照れ隠しなのかな。僕は悔しくて仕方なかったけどね」

 著書でも語っている黄金期の重圧。ピリピリと感じていたミスの重さ。落合氏がよくつぶやいていた言葉を思い出す。「こいつらは、見てやんなきゃダメだから」。指揮官が鋭い視線を注ぎ続けることで、選手に緊張感が生まれる。それがチームの隙のなさとなり、強さに繋がっていったと感じる。

「そういう時代だったし、それを評価してくれるのが落合さんだった」

 もちろん選手も首脳陣も年々入れ替わり、チームの雰囲気は違ってくる。過度なプレッシャーが萎縮につながることもある。それでも、厳しいプロの世界を生き抜いていくためには、覚悟を決める瞬間が必要だという思いは、今でも不変だと確信する。森野氏にとっては、あのノックに耐えた経験こそが、一流への入り口だったということだ。

○「使いこなされる力。名将たちが頼りにした、“使い勝手”の真髄とは。」
 10月30日に講談社から出版された森野将彦氏初の著書。星野仙一氏、落合博満氏ら6代の監督を通じてレギュラーであり続けた“使い勝手の良さ”とは――。21年間のプロ人生で培った哲学には、ビジネスにおいても役立つ言葉が散りばめられている。

(Full-Count編集部)

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