「おい小僧っ子!」バット向け張本氏から怒号… 齊藤明雄氏が語る新人王の裏側
抑えに専念しながら規定投球回超え…最優秀防御率を獲得した驚異の82年
齊藤氏の現役プロ生活で、最高のシーズンといえるのが、関根潤三監督就任1年目の82年だろう。シーズンを通して抑えに専念しながら、規定投球回数を突破し、5勝6敗30セーブ、防御率2.07で最優秀防御率のタイトルを獲得した。
前年の81年を5勝15敗10セーブ、防御率4.31という不本意な成績で終えていた齊藤氏は、心機一転、登録名を「明雄」から「明夫」に変更して臨んでいた。「姓名判断の専門家に、“雄”では我が強く出過ぎるといわれた」そうで、以後現役生活をそれで通した。そして開幕前、当時2枚看板だった遠藤一彦氏とともに監督室に呼ばれ、開幕スタートダッシュをかける意向を伝えられ、「最初の10試合は少し無理してもらう」と通告された。
本拠地・横浜スタジアムで行われた阪神との開幕戦では、齊藤氏が2年連続2度目の開幕投手を務め、8回2失点と好投し降板。白星こそ付かなかったものの、チームは9回、阪神・小林繁投手が敬遠しようとした球が暴投となり、まさかの逆転サヨナラ勝ちを収めた。そこから中2日で、巨人戦にリリーフ登板して4イニングを投げると、以後は抑えに定着した。5月中旬に、関根監督から先発復帰を打診されたこともあったが、「ちょうどチームの調子がいい時期で、このまま抑えでいきますよ、と言った」。抑えといっても、近年のような1イニング限定ではなく、連日“回またぎ”は当たり前。「7回から行くぞと言われていた」という過酷さ。そんな大車輪の働きが可能にしたのが、前年の不振を払拭するために春季キャンプで大幅に増やした投げ込みの球数で、1日360球に上ったという。
1歳下の遠藤氏との激烈なライバル関係も、奮闘の原動力となった。「あいつより1球でも多く投げ込むとか、1本でも多く走るとか、お互いに意識していた」。春季キャンプでは2人で張り合い、なかなか投げ込みをやめず、関根監督から「そろそろ終われ!」とストップをかけられたこともあった。「わかりました。ラスト10球にします」と齊藤氏が返答すると、「キャッチャーが壊れちゃう。あと1球にしろ!」と言われたとか。
驚異的なタフネスを発揮していた背番号17。次回は、個性的過ぎる“ホエールズの仲間たち”の秘話を明かしてもらう。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)