中日・木下拓、大野雄の最優秀防御率のために描いた“禁断の手”「パスボールなら…」

中日・木下拓哉【写真:荒川祐史】
中日・木下拓哉【写真:荒川祐史】

大野雄のタイトルがかかったDeNA戦で木下拓は“禁断の手”を準備

 木下拓には忘れられない夜がある。11月5日だ。ナゴヤドームでのDeNA戦。8年ぶりのAクラス確定と大野雄大の最優秀防御率のタイトルがかかっていた。

「前夜に相手打線のデータを読みまくって、暗記しました。あとは色々な場面を想定して、自責点ゼロで切り抜けることを考えました。正直、寝付けませんでした」

 試合開始前、木下拓は“禁断の手”を使っていいか、中村武志バッテリーコーチに許可を取りに行った。

「味方が大量リードした状況に限りますが、ランナー3塁でバッティングカウントになったら、パスボールをしようと考えたんです。パスボールなら大野さんの自責点にはならない。あと、1、3塁で1塁ランナーが盗塁を仕掛けた時の2塁悪送球も考えました」

 中村コーチの承諾を得た後、伊東勤ヘッドコーチにも伝えた。

「伊東さんは『よくそこまで考えたな』と言ってくれました。『やれ』とは言っていませんが、万が一やったとしても、大丈夫だと捉えました」

 結局、大野雄は3塁を踏ませない好投で7回無失点。“禁断の手”を使わずとも、試合は2-0で終盤を迎えた。

「7回で大野さんが交代すると聞いた時、肩の荷が下りました。スコアボードが17対0に見えました」

 試合はそのまま2-0で勝利し、8年ぶりのAクラスが確定した。試合後にベンチ裏の風呂場でシャワーを浴びていると、野太い声がした。

「今日はよく頑張った。ナイスリード」

 伊東ヘッドコーチだった。

「嬉しかったですね。2年間で伊東さんに褒められたのは初めてでしたから。キャッチャー冥利に尽きるというか。忘れられない夜です」

 バット、お立ち台、リード。その全てで今季終盤に力を発揮した木下拓。決して好スタートではなかったが、次第にチャンスをものにし、最後はライバルを大きく突き放した。

「正捕手なんて全然思っていません。またイチから争えるようにしっかりオフに鍛えます」

 木下拓に「準備」と「ひらめき」はあるが、「油断」はないらしい。神様は微笑み続けるか。勝負の6年目はもう始まっている。

(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。テレビの情報番組の司会やレポーターを担当。また、ラジオの音楽番組のパーソナリティーとして1500組のアーティストにインタビュー。2004年、JNN系アノンシスト賞ラジオフリートーク部門優秀賞。2005年、2015年、同テレビフリートーク部門優秀賞受賞。2006年からはプロ野球の実況中継を担当。現在の担当番組は、テレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜12時54分~)「High FIVE!!」(毎週土曜17時00分~)、ラジオ「若狭敬一のスポ音」(毎週土曜12時20分~)「ドラ魂キング」(毎週金曜16時~)など。著書「サンドラのドラゴンズ論」(中日新聞社)。

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