「東大はあんなに弱いのになぜ六大学に?」9歳で疑問を持った東大野球部員の涙と葛藤

明大戦に敗れた試合後、応援席に向かって挨拶する東大ナイン(玉村主務は左から3人目)【写真:荒川祐史】
明大戦に敗れた試合後、応援席に向かって挨拶する東大ナイン(玉村主務は左から3人目)【写真:荒川祐史】

東大が六大学で戦う理由は「自分たちのため」とブログに記した真意

「弱い東大が東京六大学にいる意味はあるのか」

 この問いがネットニュースなどで話題になるたび、大半は実力差にまつわる指摘が占める。しかし、実は当事者としてそれ以上に悔しい意見が一つあるという。「『弱いから要らない』と言われることは結果を出せない自分が悪い。悔しいけど、自分たちの責任。でも……」と言葉をつなぐ。

「文化的、歴史的な理由を挙げて、東大は六大学に必要だと言われることが一番悔しいんです。『弱いから』と言われるのは純粋に野球の評価として見てくれている。ある意味、平等に扱われていると感じますが、それは違うんじゃないかって」

 だから「東大野球部が六大学野球に在籍している理由」として、こう記した。

 ◇ ◇ ◇

 六大学野球の伝統であったり、歴史的な意義であったり、学問的な役割であったり、高尚な理由が謳われます。でもどれも自分にとっては的外れな気がするのです。僕がこの4年間の大学野球人生で、自分なりに導き出した答えは、自分たちのため。それ以上でもそれ以下でもないと思います。他の誰でもない自分たち東大野球部員自身のために、東大野球部は六大学野球という過酷な舞台で闘っているのです。でもそれには結果を出すしかありません。他大学相手に勝利して、勝ち点を取って、順位争いをして、優勝して、そうしてやっと認めてもらう以外に道はないのです。

 ◇ ◇ ◇

 東大が戦う理由は「自分たちのため」。記した想いに、こう付け加える。

「支えてくれる人のために頑張ることは素敵だし、力になります。ただ、東大野球部はみんな優しくて良いヤツ。9回に逆転負けした春の慶大戦のように『誰かのために』の想いが強すぎて緊張し、普段と違う自分が出てしまう。『誰かのために』が足かせのようになっていました。あのブログを書くかは迷いました。ただ、自分たちをアピールできる最後の場であり、同期に向けて書いた文章でもあるので、その想いが届いてくれればと……」

 本気で勝利を目指す仲間へ本気のエール。ブログは「これだけやり切ったからこそ、僕は最後に何が何でも結果を残したい。みんなのこの努力を、負けたときの慰めや逃げ道なんかにしたくない。だから最終カード、絶対に勝とう。他でもない自分たちのために」と締めくくったが、しかし――。

 待っていたのは冷酷な現実だった。明大1回戦は投手陣が序盤から打ち込まれ、3-9で完敗。そして、運命の2回戦も1-4で敗れた。残ったのは46季連続最下位とともに、56連敗という事実。ハッピーエンドは待っていなかった。そして、試合後は泣いた。選手よりも泣いた。

 ただ、負けたから東京六大学で戦うことの魅力を感じたことも事実だ。

 最終カードまでの2週間、夢を見ることが多かった。夢の中では勝ったり負けたりだったが、それほど最終カードにすべてをかけていた。試合後は号泣し、夜は夜で部員同士で涙ながらに寮で酒を酌み交わし、翌朝起きると「ああ、昨日までのことはもう夢じゃないんだ」と実感した。

「これが映画ならきっと勝てると思うんです。それでも、現実は勝てない。東京六大学は本当に厳しい場所だと思いました。ただ、それは力差があっても他の5校が本気でぶつかってきてくれるから。トーナメントなら2、3番手を投げさせれば勝てるかもしれない。でも、1回戦はエース、2回戦は2番手を当ててくれる。しかも、これだけレベルの高いリーグでうれしいし、光栄なこと。それは、東京六大学以外ではきっとないことだと思います」

 勝てなかったから、この4年間が無駄だったかというと決して、そんなことはない。下級生時代は学習塾のアルバイトを掛け持ちし、3年生からは部活を終えた午後6時から寮近くの中華料理屋で時給1020円で週3日働いた。勉強・部活を両立させながら。

「高校生の頃はあまり自分に自信がなかったんです。何か、漠然としたコンプレックスがあって。でも、マネージャーという立場をやらせていただき、本気で勝ちたいと思って4年間を過ごしてきました。勝てなかったことはある意味で無意味かもしれませんが、今はちょっとのことじゃ動じないくらいの心を身につけられました。何より東大の選手、マネージャー、六大学のマネージャー、良い仲間と巡り会えて本当に良かったと思います」

 下級生時代、新入生向けのリーフレットでOBの喜入友浩(現TBSアナウンサー)に原稿を依頼した。そこに、書かれた一文が忘れられない。「人生の礎になる学生生活の集大成を東大野球部で送ってみませんか。私は生まれ変わっても、ここで野球をしたいと心から思っています」とあった。

 玉村主務は「僕も今、生まれ変わっても東大野球部に入りたいと思っています。そして、またマネージャーをやりたいです」と笑う。

「苦しいことがいっぱいあったし、最後勝てなかった事実が一番苦しかったです。でも、すべてを考えると、すごく良い仲間とすごく良い環境で野球ができた。どこの世界を探しても、こんな良い場所はないと思っているくらいなので、また東大野球部に入りたいと思います」

 それだけの魅力が、東大野球部にはある。そして、付け加えた。「もし、次にマネージャーをやるなら、今度こそは勝ちたいです」と。

(神原英彰 / Hideaki Kanbara)

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