元ヤクルト上田氏が迎えるプロ野球の“元旦”2月1日 「今の状況は不思議」
10月10日広島戦後にマネージャーから連絡「“無”でした。何も考えることができなかったです」
今でこそ生気を取り戻した上田氏だが、昨秋ヤクルトから戦力外通告を受けた際は、寝耳に水で憔悴した。11月10日夜、本拠地・神宮球場で行われた昨季最終戦の広島戦にも、5回からレフトの守備に就き途中出場。6回に巡ってきた打席は二塁ゴロに倒れたが、8回に放った飛球を相手左翼手が落球し出塁。3-7の4点ビハインドで迎えた9回1死一、二塁では、左腕フランスアの内角低めのツーシームを打ち、二ゴロ併殺で最後の打者となった。結果的に、これがプロ生活最後の打席だった。
試合終了後、マネジャーから「明日、球団事務所へ行ってくれ」と言われ戦慄が走った。翌日、編成担当から戦力外を通告された瞬間は、「“無”でした。何も考えることができなかったです」と打ち明ける。
最終年は代走、守備固めが多かったが、全力疾走、体を投げだしての美技に緩みは一切なかった。また、本塁打を放った味方打者を迎える際には、常にベンチの端の中継カメラに1番近い所に陣取り、カメラ目線でおどけた表情をつくって、テレビの前のファンを笑わせた。その映像は「上田新喜劇」と呼ばれ、SNSを通じて拡散していった。
常にファンの存在を意識する上田氏の気持ちは、多くの人々の心に伝わっていたのだろう。戦力外通告が報じられると、ツイッター上で「#上田剛史の戦力外に抗議します」というハッシュタグ付きの投稿が、自然発生的に広まった。
「惜しまれるような成績ではないのに、あれほど惜しんでくれるファンがいたことに、正直びっくりしました」と振り返る。14年間で通算797試合に出場し、345安打9本塁打109打点75盗塁、打率.236。当初は12月7日の合同トライアウトを受験することも検討したが年齢は32歳。「NPB球団からのオファーはないだろうと、自分でもわかっていました。野球は大好きですが、ズルズル続けるのはちょっと違う気がしました」と引退を決意。ファンからの激励に背中を押された気もしていた。
「戦力外通告を受けて、何も考えられず、どうしたらいいのかわからない中で、ファンの方々のコメントやメッセージが、僕を元気にしてくれました。今後、何らかの形で絶対恩返ししたいです」と言葉に力を込めた。
その上田氏にも、2月1日が近づいている。「例年なら体がバリバリ動いている状態で、これから自主トレの疲れを取り、いざキャンプへと向かう時期。今の状況は、不思議といえば不思議ですね」と述懐する。そして「シーズンが開幕し、去年まで一緒にやっていた選手たちがユニホームを着てプレーし始めたら、もっと思うところがあるでしょうね」と付け加えた。次回は、歓喜と悔恨のプロ生活を振り返る。