元中日野手が語る「落合伝説」の一端 無言のまま5時間も素振りを続けた“壮絶指導”
落合氏が口を開いた瞬間が終了の合図だった「最後の1本、良かったな」
腕が上がらないほど疲れていたはず。それでも、まったく感じないほど没頭していた。見られていることすら忘れてしまいそうなくらい。いつの間にか夜の帳が下りていたことも、もちろん気づかなかった。ようやく落合氏が口を開いた瞬間が、終了の合図だった。
「最後の1本、良かったな。それを忘れるな」
表情ひとつ変えず、そのまま部屋を出ていった。ふと時計を見ると、午後7時だった。始まったのは午後2時ごろ。5時間も休みなくぶっ通しでスイングをしていたなんて、自分自身でも信じられなかった。
「人生で1番、強烈な時間でした。でも同時に、夢のような時間でもありました」
史上唯一の「3度の3冠王」に輝いた稀代の大打者が、そこまで時間を割いてくれたことがうれしかった。「帰り際だったので、きっと予定もあったはず」と当時を振り返る。その後もナゴヤ球場で会うたび、声をかけてもらった。
石川氏は2年目の2016年に1軍デビュー。2017年には初の開幕1軍をつかんだが、腰痛など相次ぐ故障に悩まされレギュラーに定着できなかった。四六時中、理想の打撃を考え、思い立ったら昼夜問わずにバットを振る生活。「休む勇気というのも、持つべきだったかもしれません」。2020年限りで戦力外通告を受け、現役を引退。「もう野球はお腹いっぱい」。紛れもない本音だった。
1軍通算31試合で41打数10安打、1本塁打、6打点。結果で恩返しはできなかったが、感謝の念はつきない。「12球団ある中で、落合さんがいる中日でプレーできて良かったです」。偉大な存在と過ごした濃密な時間を、今でも宝物のように胸にしまっている。
(小西亮 / Ryo Konishi)