与えたい「打席での勇気」 6年ぶりの現場復帰、谷佳知氏が伝えたい打撃の真髄

谷佳知氏が与えたい「打席での勇気」とは【写真提供:東芝野球部】
谷佳知氏が与えたい「打席での勇気」とは【写真提供:東芝野球部】

雰囲気のある打者の礎となっているのが中西太氏からの言葉

 打席に入った選手の後押しをすることが、自分に与えられた使命だと感じている。現役時代の2001年には52二塁打のシーズン記録をマーク、03年には189安打を放ち、最多安打のタイトルを獲得。通算5度のベストナインに輝くなどの成績を収められたのは「ベンチが気持ちよく打席に入らせてくれたから」だと振り返る。

 プロ1年目の1997年。監督は名将・仰木彬氏。1軍ヘッドコーチは野球殿堂入りを果たしている中西太氏だった。

「中西さんから『3球振ってこい』と言われて、思い切り振って、帰ってきた記憶があります。ベンチがそう言ってくれているので迷いなく振れますよね。結果が全てですけれど、頭の中が整理整頓できた状態で、また打席に立てるようにしてくださった。だんだん緊張しなくなりましたね。(指導者として)そういう風に打席に入れる勇気を与えたいなと思います」

 この「勇気」が出るまでの過程は人それぞれで、簡単には手に入れられない打者の心構えだ。プロの選手の多くに備わっているが、谷氏は一人でも多くの東芝の選手に備わせたい、一緒に積み上げていきたいと願う。

「自信を持って打席に立つためには、狙い球を絞るのもその一つだし、状況を判断することも必要です。ベンチからエンドランのサインが出たからやる、のではなく、その打席に入る前に『エンドランがあるんじゃないか』と感じられるようになったり、状況を見てバッティングができようにしてあげたいですね」
 
 それが積み重なったものが自信となって、打席での勇気に繋がる。そして、バッターの“雰囲気”ができあがる。

 東芝は昨年の都市対抗野球で初戦敗退。2010年以来の日本一を目指し、打撃強化を託せるコーチを探していた。これまで谷氏と東芝野球部の接点はなかったが、関係者を通じて、打診を受けた。その強い思いに共感し、受諾。6年離れた野球の現場の空気、感覚をつかみたいという思いもあった。もちろん目指すのは、都市対抗野球の優勝だ。

「今の若い選手たちがどのような感覚で野球に取り組んでいるのか学びたいという思いもありました。自分が(三菱自動車岡崎で)やっていた頃を思い出しますね。どれだけ都市対抗野球のために力を注いだことか……。一発勝負の駆け引きはプロとは違った面白さがありましたから、応援も含めて、社会人野球には魅力がたくさんあります」

 大学から社会人野球に身を置き、給料を初めてもらった時のことも忘れない。自分で何を買ったかは覚えていないが、親への感謝を改めて感じ、初任給の一部を少しだけ手渡した記憶は残っている。プロの世界で学んだ技術を後進に伝えていく時が来た。日本球界に名を残したレジェンドがこれから、社会人野球への感謝の思いも還元していく。

(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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