ノムさん絶賛「日本一のスコアラー」 酒も愛した元燕左腕・安田猛さんの豪快人生

ガン診断後も変わらぬ豪快さ「酒を飲んで寿命が縮まるなら本望」

 だが同年2月、ガン細胞が腹膜に散らばる「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」でステージ4と診断され、余命12~13か月の宣告。監督就任を諦めざるをえなかったのは痛恨だった。

 それでも、不屈の闘志は陰りを見せなかった。抗がん剤治療に耐え、ガン細胞の進行を抑えた。1年のはずだった余命は、4年にまで伸びたことになる。東京の自宅と福岡の二重生活で、コーチやアドバイザーとして小倉高の指導も続けた。

 一方で、酒を愛し、ガンと診断された後も禁酒はしなかった。「酒を飲んで寿命が縮まるなら本望」と笑い飛ばしていた。糖尿の持病もあり、酒席の途中でもおもむろに注射器を取り出し、へそのあたりにインシュリンを打っていたのには驚かされた。炎天下で一緒にデーゲームを見ていて、「何か飲み物を買ってきましょうか?」と聞くと、「いらない。今飲んでしまうと、仕事を終えたあとのビールのおいしさが半減するから」と大真面目に答えていた。

 そんな安田さんだけに、昨年からコロナ禍で外食がままならなくなったのは残念だった。「俺は抗がん剤治療をしていて、血糖値が高くて、おまけに高齢。重症化リスクがめちゃくちゃ高い。せっかく腹膜播種を抑えているのに、コロナで死んだら諦め切れないからなぁ」と苦笑していた。

 もう1度、酒を酌み交わしながら、昭和の野球界の表裏を聞きたかった。そちらの世で、おいしい店を見つけて待っていてください。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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