143試合換算で分かるパ・リーグ投手の進化 時代に逆行?規定投球回到達が増加
分業制が進む中で規定到達者の増加は注目すべき点
最後に、2019年と2020年の両年とも規定をクリアした投手は4人いるが、そこに共通点はあるのか? 彼らの2年間の成績と、2020年の143試合換算成績は以下の通りだ。
2年間の数字で大きく変化しているのは、千賀と美馬の被本塁打数だ。2019年にはともに19被本塁打を喫していたが、2020年にはその数を大きく減らしている。さらに、千賀はリーグで唯一2桁勝利を継続しており、美馬は規定到達者のうち、2年連続で四球が最も少ない。死球に至ってはリーグ唯一のゼロだ。美馬は移籍1年目という状況でもあったが、彼らはともに特殊なシーズンに適応し、期待に応える活躍を見せた。
山本は防御率の面では成績を落としたものの、登板数が減った中でも勝ち星は減らさず、大幅に三振数を増やして奪三振王に輝いている。有原も143試合換算の成績を見れば先発の軸として十分な数字だ。また、美馬を除く3人は2シーズンのどちらか、あるいは両方で投手タイトルを獲得している。美馬は無冠だが、2020年には最多勝まであと1勝に迫った。
彼らは先発の評価の基準のひとつとなる「規定到達」を、前例のない状況だった2020年にも達成した。つまり、大きな怪我も不調もなくイニングを消化する能力を備えているだけでなく、急激な変化にも動じない対応力を持っているということ。山本と千賀には故障があったが、1試合ごとの内容が優れていたからこそ、最終的に規定に到達している。
規定に到達するには、6試合に一度登板し、平均6イニングを投げる計算になる。一度でも登板機会を飛ばしてしまうと、次の6試合では平均7イニングが必要だ。2020年は試合数が少なかったため、失敗を挽回するのは難しく、不安定なシーズンを戦い抜く調整自体、困難を極めたはずだ。実際、規定に到達した8人の中には、涌井、田嶋、石川のように、シーズン終盤に調子を崩した投手もいる。
それでもその中で成績を上げた投手がおり、規定到達者全体を見ても前年から減少するのではなく、むしろ増加に転じた点は注目だ。規定到達者の数は減少傾向にあるからこそ、長いイニングを任されるため、規定に到達するためには、先発としてより高度な投球内容が必要となってくる。ならば2020年の規定到達者の増加は、短期的とはいえ、パ・リーグの先発が進化しているということの証明ではないだろうか。
今後、投手分業制、ひいてはリリーフの重要性が増していく時代の流れが変わる、ということは考えにくい。しかし、各投手の2020年の奮闘はリーグ全体のさらなるレベル向上につながるかもしれないという意味で、明るい材料と言えるだろう。
(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)