負けたかのように「申し訳ない」 ドラフト候補の市和歌山捕手に笑顔がなかったワケ
ドラフト1位候補の小園は5回無失点、決勝は強豪の智弁和歌山と対戦
甲子園があと1つに迫っても、笑顔は全くない。全国高校野球選手権和歌山大会は25日、準決勝2試合が行われ今春の選抜出場の市和歌山が10-0の5回コールドで高野山を破った。決着をつけたのは今秋のドラフト候補の主将・松川虎生捕手の2ランだったが、試合後は厳しい表情を貫いた。
全く隙のないような試合に思えた。投げては今秋ドラフト1位候補の152キロ右腕・小園健太投手が二塁を踏ませない投球で5回1安打8奪三振の無失点投球。打線については「効率よく、つなげてくれた」と半田真一監督が評価するように、13安打10得点と4試合連続コールド勝ちを収めた。
ただ、松川は違った。初回に先制の犠飛を放つと第2打席でも適時打。4番の仕事をしっかりこなしているように見えたが、課題となったのは4回の第3打席だった。この回、先頭の2番・杉本明弘内野手(3年)が左翼への二塁打で出塁し、1死二塁で打席が回ってきた。
3回の好機で無得点だったチームは追加点が欲しい場面。しかし、松川は初球を遊ゴロ。ベンチからは「かっこつけんなよ!」と声が飛んだ。「欲が出てしまって。チームに申し訳ないです」とまるで敗戦したようなトーンでその1打席を振り返った。
リベンジの機会は5回にすぐにやってきた。8-0とリードした1死二塁。一本出ればコールドの場面だった。「センター返しを意識して」と、初球のストレートを振り抜いた。「ちょっと詰まった」という打球は、弧を描き、左中間スタンドに飛び込んだ。10点目となった高校通算43号を放つも、それでも表情は冴えない。「ホームランの喜びよりも凡打の反省が大きい」と辛口評価を下した。
この日の松川はチーム最多の4打点。それでも並ぶのは反省の言葉ばかりだ。「無駄な1打席はない。チームの為に1本出せるバッターになりたい」。決勝の相手はライバルの智弁和歌山に決まった。チームのことを最優先に考える主将が、春夏連続の甲子園へ導く。
(市川いずみ / Izumi Ichikawa)
市川いずみ(いちかわ・いずみ) 京都府出身のフリーアナウンサー、関西大学卒。山口朝日放送アナウンサー時代には高校野球の実況も担当し、最優秀新人賞を受賞。学生時代はソフトボールで全国大会出場の経歴を持つ。