9回無死満塁をKKK斬り 甲子園で覚醒する日大山形の剛腕は「150キロ出すのが目標」
滝口と対照的な先発・齋藤も「甲子園は本当に投げやすかった」
9回に大ピンチを招いて降板した齋藤は、滝口に絶大な信頼を寄せている。「自分にはない球速がある投手。最後は滝口と、信頼して任せられます」と交代を告げられたシーンも、さも当然のように受け入れる。ただ、続けて「自分がエースなので、本当は投げ切らないといけないところですけど……」。先発としてイニングを重ねることを考え、マウンドに上がっている。投げ切れなかったことには、ちょっぴり後悔がある。
滝口と対照的に力を抜いたフォームから、ボールを低めに集めていくのが持ち味だ。直球は130キロ前後で、制球とリズムが命。「県大会では凄く力んでしまったので、修正できたと思います」とこの舞台への調整も万全だ。
走者は許しても、得点は与えない。1回、2死満塁を三飛でしのぎ、5回から7回までは続けて得点圏の走者を背負った。それでも「力を入れすぎてはもたない。打ち取るところは打ち取るのが自分のスタイル」というぶれない軸が、好投につながった。9回途中まで、被安打12本ながら1失点。自分にできることに徹した結果の勝利だった。
恒例行事の、開幕前の甲子園練習がないこの夏、さらに開会式直後の試合を引いたことで「アップのあと時間が空きますし、体が冷えてしまうのが不安でした」と未知の要素もあった。固くなりがちなハートを柔らかくしてくれたのが、歌手、俳優の山崎育三郎さんが試合前に行った大会歌「栄冠は君に輝く」の独唱。「テレビで見ていた人を間近に見て、感動しました。上手くほぐれたのかな」と実力を発揮する助けになってくれた。
「緊張するのかなと思ったけど、本当に投げやすかった」齋藤もまた、滝口と同じく甲子園のマウンドの投げやすさを強調した。昨年の先輩たちが目指すこともできなかった場所で、思いを感じながら投げる。2013年に4強入りしたチームとの類似点を問われた荒木監督は「うちは必ず守り中心のチームなので、そこは似ているかもしれませんね」。剛と柔の右腕コンビが、暑い夏のマウンドを死守する。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)