米国代表を率いたソーシア監督が名将と呼ばれる理由 期間中に見せた関係者への気配り

米国ファンは期待薄も「自分たちは金メダルを取らないといけない」

 この出来事から、ソーシア監督は松浦さんを気に掛け、よく話しかけてきたという。東京五輪にかける胸の内も明かすこともあった。「米国人の大多数は、このチームでは優勝できないと思っている。その中で、自分たちは金メダルを取らないといけない」。米国代表の大半がメジャー経験はなく、マイナーリーグでプレーしている。国内では代表チームへの関心も決して高くない。ただ、野球大国として金メダルは使命とされていた。

 日本との決勝戦前日、米国チームの練習は息が詰まるような緊張感に包まれていた。金メダル獲得が科されている重圧。ノックアウトステージで敗れている日本に再び負けることは許されない。選手から普段の笑顔は消えていた。そこで、ソーシア監督が動く。「きょうの練習は終わり。本塁打競争をやるぞ」。張り詰めた空気が変わった。選手の表情に柔らかさが戻り、歓声が上がる。緊張から解放された選手は、フルスイングで次々に打球をスタンドへ運んだ。

 ソーシア監督は松浦さんに「みんな緊張していたから、遊びを入れたかった」と急きょ本塁打競争を開催した意図を説明した。これまでの野球人生で決戦前の緊張感を何度も経験してきた松浦さんは「ここで本塁打競争をメニューに入れてくるのかと驚きました。チームが1つになったのを感じました」と振り返る。

 米国は金メダルに届かなかった。ただ、ソーシア監督が率いたチームは現役メジャーリーガー不在でも魅力的だった。

(間淳 / Jun Aida)

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