子どもが野球を辞めずに済むように… 横浜高元主将の取り組みに広がる賛同の輪

賛同の輪がプロ野球に広がり、西武が支援

 母親にとっても、小川さんが野球をする姿が力の源だった。中学の時に日本代表に選ばれた小川さんのメキシコ遠征が決まると、「日の丸を背負ってプレーする姿は一生のうちで最後かもしれないから」と仕事を辞めた。2週間の遠征に同行し、息子の雄姿を目に焼き付けた。高校、大学で野球を続ければ、合宿や遠征などの費用がかかる。小川さんは母親の負担を減らすため、野球で結果を残して学費が免除となる奨学金制度を受けた。

 歩んできた道は野球のエリート。だが、小川さんが野球を始めたのは意外なきっかけだった。「小学生の時に学校でいじめられて、逃げるように野球を始めた」。いじめは、ある日突然始まったという。クラスメートに無視されたり、机を隠されたりした。思い当たる原因はない。居場所を求めて、学校とは関わりのない地域の野球チームに入った。「ここなら安心できるという場所が見つかった。あの時、野球をしていなかったらどうなっていたのか」。野球に打ち込んで成果が出ると、不思議といじめがなくなった。

 スマートフォンが普及する今、小川さんはいじめが陰湿になり、大人の目が届かないところで悩んでいる子どもたちもいるのではないかと感じている。自身の経験から「スポーツを始めるきっかけは逃げ道でもいいと思う。教室とは違う環境、コミュニティがある。野球で子どもたちを救えたらというのが大きな目標」と語る。

 小川さんが活動を始めて約1年。共感や賛同は大きくなっている。西武は日本未来スポーツ振興協会にグラブを寄贈。勝利の方程式の一角を担う平井克典投手は昨シーズンから、登板数と同じ数のグラブを子どもたちに贈っている。また、期間限定で使わなくなった野球用具を寄贈してくれた人を対象に、山川穂高内野手や森友哉捕手、源田壮亮内野手らのサイン色紙をプレゼントしている。他の球団も取り組みに関心を示し、協力を名乗り出る企業も増えてきた。

「子どもたちが何かしたいと思った時に家庭環境を問わずに挑戦できる支援をしたい」と小川さん。その輪は確実に広がっている。

(間淳 / Jun Aida)

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