「イチローさんに来てほしい」敗戦の高松商監督があえて言葉にしたことの意味
2016年には選抜準優勝で古豪復活を印象付けた
イチローさんに来てほしい――。第103回全国高等学校野球選手権大会の第11日目が24日、甲子園球場で行われ、高松商(香川)は強豪の智弁和歌山に3-5で敗れた。昨年11月の香川県高野連招待試合で対戦した時は0-1の接戦だったが、高松商・長尾健司監督は「うちの選手はそれなりに成長していると思うのですが、それ以上に智弁和歌山が……」と力の差を実感していた。そこで飛び出したのが、冒頭の言葉だった。
対戦相手の智弁和歌山は昨年12月、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏に直接指導を受けていた。「やっぱり、イチローさんに教えていただいて強くなったんだろうな、と。やる気が出たんだろうな、と思うと、うちにもイチローさんに来てほしいなと思います」と突然の“ラブコール”。もちろん長尾監督もその理由だけで智弁和歌山が強くなったとは思ってはいない。他にも緻密さや守備の固さ、バッテリーのきめ細やかさなど、レベルの高い野球を絶賛していた。
言葉にしなければ伝わらない。行動を起こさなければ何も起きることはない。長尾監督はこの場を狙って発言したわけではないが、イチロー氏だって、指導を求めていない場所に行こうとは思わないだろう。本当に子どもたちの未来、野球界の未来を考えているのだから。
指導を受けた選手たちには、刺激となっていることは間違いない。智弁和歌山・中谷仁監督は試合後、報道陣がしたイチロー氏関連の質問に答える形ではあるが、「いつも見てくださっているので、この大会も『ちゃんと見てるよ』というメッセージをもらっています。大会前に特に(言葉のやりとりが)あったわけではありません」とその存在の大きさを明かしている。
高松商は夏の甲子園に21回出場し、2度の全国優勝を果たしている名門。長尾監督も2016年のセンバツでは同校を準優勝に導き、古豪復活を印象付けた。今夏は智弁和歌山に敗れはしたが、手腕には定評があり、生徒たちの進学をしっかりと考えてくれる指導者だ。
イチロー氏は学生野球資格回復をしているため、全国の高校へ指導に出向くことはルール上、可能だ。強豪チームかどうかではなく、大事なことは学校や指導者、選手たちの本気度だ。未来を考えている野球人がこのように声を上げ、手を取り合い、また新たな野球の魅力を伝える日が来ることを願いたい。
(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)