長嶋茂雄さんにも信頼された名実況アナ深澤弘さん　“生き証人”がみた昭和の球界舞台裏

長嶋茂雄さんが自宅で行った素振りに連日付き添ったという

　元ニッポン放送アナウンサーで、プロ野球の名実況で鳴らした深澤弘さんが8日、85歳で亡くなった。「レジェンド」と呼ばれたアナウンサーとしての実績は、今更言うまでもないが、個人的には取材現場で何度も顔を合わせ、昭和のプロ野球界の楽しい舞台裏を聞かせていただいたことが忘れられない。【宮脇広久】

　同学年のミスター・プロ野球こと長嶋茂雄さんとの厚い親交は有名だ。長嶋さんの現役時代、ホームゲームの試合終了後には、長嶋さんが運転する車に同乗して都内の自宅に同行。庭での素振りに付き添った。

　大洋（現DeNA）のエース・平松政次投手の「カミソリシュート」を苦手にしていた時には、「おい、平松をやってくれ！」と頼まれ、必死に投球フォームの形態模写をした。それに合わせてミスターがスイングする。「違う！　平松はそうじゃないだろ！」と容赦ない罵声も浴び、必死に記憶をたぐり寄せて似せた。阪神の江夏豊投手、広島の外木場義郎投手ら、深澤さんの形態模写は他の名投手にも及び、常に試合さながらの殺気に満ちていたという。

　ミスターの打撃不振時、「おい、好調の時とどこが違うんだ？　教えてくれ！」と詰め寄られたこともあったそうだ。「素人の私にわかるはずがないでしょう」と断ったが、「毎日毎日俺の打席を見ているじゃないか」と許してもらえず、苦し紛れに「スタンスがいつもより半歩ほど広い気がします」と答えた。そう言われてフォームをチェックしたミスターはつぶやいたという。「本当だ」。